
葬儀の後の手続きは、期限で4つの区切りに分けられます。14日以内、3か月以内、10か月以内、そして期限の定めがないもの。ただし4つ目の中に、3年という期限のついたものが1つだけ紛れ込んでいるところ。手元にある書類がこの4つのどこに入るのかさえ分かれば、いつ動けばいいかも決まってきます。
急いで手をつけるのは、最初の区切りだけです。3か月と10か月の区切りは、四十九日を過ぎてから取りかかっても間に合います。やっかいなのは、期限の定めがないほうでしょう。後回しにしても誰にも叱られない代わりに、忘れたままだと支払いだけが続きます。
葬儀より前の死亡届と火葬の許可については、親が亡くなった後にやることの順番と、遅れたときの戻り方 に順を追って書きました。亡くなってから7日以内という決まりで、ここは葬儀を扱う会社が代わりに動いてくれる家が多いところ。葬儀が終わって家に戻った、そこから先を並べていきます。
14日の区切りは、数え方のほうでつまずきます
14日以内という区切りに入るのは、保険と年金、それに住民票にかかわる届出です。何がその中に入るかは、冒頭で挙げた亡くなった後の手続きの記事に並べたとおりなので、この節で見ていくのは日数の数え方のほうになります。葬儀後にまず手をつけるのが、このひとかたまり。
行き先の多くは、亡くなった人の住民票があった役所になります。京都市は国民健康保険について、亡くなった日の翌日から14日以内に届け出るよう案内していました。起算点は亡くなった当日ではなく、その翌日。この1日のずれで慌てる家はまずありませんが、日数の書き方そのものは市区町村で違います。京都市も、後期高齢者医療については日数を書かず、速やかにという言い方をしていました。介護保険にいたっては日数の記載がない自治体もあるので、14日以内をめやすに動きながら、親が住んでいた市区町村の案内で「保険の届出はいつまでですか」と確かめてください。
残る人が1人になる家では、届出が要らないこともあります
法律に日数がはっきり書かれているのは、世帯を代表する人が変わったときの届出のほうです。住民基本台帳法は、自分が属する世帯やその代表者に変わったことがあった人に対して、その日から14日のうちに市町村長へ知らせるよう求めています。ただ、どの家でも必ず要るわけではありません。残る世帯員が1人だけになる家では、届出が不要とされることがあります。神戸市の案内も、世帯主が亡くなったときは変更の手続きが要る場合がある、という書き方。要るのか要らないのかは、家に残る人数と続柄で変わってくるところです。窓口で「世帯主が亡くなったのですが、世帯主変更の届出は要りますか」と聞いてください。
同じ庁舎でも、担当する課は分かれます
ここに挙げた届出は、同じ庁舎の中で片づく組み合わせでもあります。京都市の案内でも、国民健康保険の資格喪失と葬祭費の申請は同じ流れの中に並んでいました。ただし、担当する課までは同じとは限りません。保険の担当と、高齢者の健康を担当する課が別になっている市もあります。一度の来庁で全部が終わると思い込まないほうが安全でしょう。出かける前に代表番号へ電話して、回る順番を聞いておいてください。
過ぎてから気づいた人へ
14日を過ぎてしまったら、どうなるでしょう。届出そのものは、過ぎた後でも受け付けてもらえます。遅れて増えるのは、後からの精算や書類の取り直しといった手間のほうです。遅れに気づいた日が、動き出す日。
年金は、止めるだけでは終わりません
年金には、止める手続きと、受け取っていない分を請求する手続きの2つがあります。年金の停止と聞くと止めて終わりのように思えますが、受け取れるはずのお金が宙に浮いたままになりかねません。
止めるほうは、10日と14日で分かれます
止めるほうから見ていきましょう。日本年金機構は、厚生年金を受けていた人の死亡の届出を10日以内、国民年金なら14日以内と書き分けています。親がどちらの年金だったかで、数える日数が変わるところ。ただし、マイナンバーが機構に収録されている人については、この死亡の届出そのものが原則として不要という扱いです。手続きが1つ減るわけですが、受け取っていない分の請求は、それとは別に出す必要があります。
未支給年金は、誰が受け取れますか
受け取っていない分は、未支給年金という名前で請求できます。亡くなった月の分までの年金と、亡くなった後に振り込まれた分のうち、その月分までにあたるもの。これを、亡くなった当時に生計を同じくしていた遺族が受け取れる仕組みです。用紙は1枚で、死亡の届出と未支給年金の請求が同じ書式にまとまっています。止める手続きに行くときに、一緒に出してしまうのがいちばん楽でしょう。
請求できる人には順位があり、配偶者から始まって、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹、そこから3親等内の親族まで続きます。上の順位の人がいるあいだ、下の順位の人は請求できません。同じ順位が2人以上なら、そのうちの1人が代表して請求する決まりです。受け取った額によっては、その年の確定申告が要ることもあります。相続財産ではなく、受け取った人の一時所得という扱いです。一時所得の合計が50万円以下なら申告は不要とされていて、これは申告が要るかどうかの線であって、受け取れる上限ではありません。細かいところは税務署に聞いてください。
添える書類は、亡くなった日より後のものです
つまずきやすいのは、添える書類のほうです。続柄が分かる戸籍と、生計が同じだったと分かる住民票が要るのですが、どちらも亡くなった日より後に交付されたものでないと通りません。生前に取ってあった戸籍を使い回そうとして、窓口で出し直しになる家があります。離れて暮らしていた親子なら、生計同一関係に関する申立書という書類で補ってください。法定相続情報一覧図の写しを作ってあるなら、戸籍の束の代わりにそれを出せます。申立書の用紙をどこでもらうかは、年金事務所に「生計同一関係に関する申立書がほしい」と伝えてください。
亡くなった後に入った年金は、後から返します
年金は2か月に1度の後払いなので、亡くなった後に入金があること自体は珍しくありません。亡くなった日の翌日より後に受け取った分は、後から返すことになります。責められるような話ではなく、返す作業がひとつ増えるだけの話。通帳が手元にあるうちに、いつ、いくら入ったかを1行ずつ控えておくと、精算の話が早く進みます。
もう1つ、口座のほうにも気をつけてください。未支給年金を請求しても、亡くなった人の口座を解約しないままだと、年金がそちらへ振り込まれることがあると日本年金機構が案内しています。年金機構の側と、金融機関の側は別に動くためです。口座をどうするかは、取引のある金融機関に相談してください。
遺族年金は、誰にでも出るわけではありません
残された配偶者がいる家では、遺族年金という別の制度も視野に入ります。国民年金からの遺族基礎年金と、厚生年金保険からの遺族厚生年金の2本立て。ただし、納付の状況、受け取る人の年齢、優先順位といった条件を全部満たすことが前提です。遺族基礎年金のほうは子のある配偶者か子が対象で、この子とは18歳になった年度の3月31日までにある人などを指しています。親を看取った50代や60代の子が、自分のために受け取れる制度ではありません。当てはまるかどうかは、年金事務所で確かめてください。
健康保険と介護保険は、どうなりますか
健康保険と介護保険は、亡くなった日の翌日に資格を失い、手元の証書を返すところまでが手続きです。返して終わりではありません。申請すれば受け取れるお金と、数か月してから届く精算の通知が、この後ろに控えているからです。
何を、どこへ返しますか
返すものは、加入していた制度で変わります。国民健康保険や後期高齢者医療なら、資格確認書や保険証を市区町村へ。介護を受けていた家なら、介護保険の被保険者証に負担割合証や減額の証が加わります。どの証が交付されているかは自治体で違うので、引き出しに入っている介護保険関係の紙は、まとめて持って行ってください。会社の健康保険に入ったまま亡くなった場合は、行き先が役所ではなく勤務先。保険証を勤務先へ返せば、資格喪失の届出は会社が日本年金機構へ出す流れになっています。遺族が役所へ走る必要はありません。
申請して初めて出るお金が、3種類あります
ここからが、申請しないと出ないお金の話。葬祭費という給付が、国民健康保険には用意されています。喪主となって葬儀を出した人が、自分で申請して初めて受け取れるお金です。額は市区町村の条例で決まるため、全国一律ではありません。2026年8月の時点では、横浜市と神戸市が5万円、札幌市と福岡市が3万円でした。これは実際に振り込まれる額で、上限や目安の数字ではありません。3万円から5万円ほどという幅で頭に入れておいて、親が住んでいた市区町村に「葬祭費はいくらですか」と聞いてください。
75歳以上だった人なら、行き先は後期高齢者医療の窓口になります。こちらの葬祭費は都道府県の広域連合が決めるので、額の決まり方も国民健康保険とは別。横浜市の案内では、神奈川県の後期高齢者医療で5万円とされていました。親がどちらの制度だったか分からないときは、手元の保険証か資格確認書をそのまま窓口へ持って行ってください。
会社の健康保険だった場合は、名前が葬祭費ではなく埋葬料に変わります。全国健康保険協会では、生計を維持されていた人が申請して5万円を受け取る形。生計を維持されていたかどうかは、生活費の一部でも支えられていれば足りるとされ、民法上の親族かどうかも、同じ世帯かどうかも問われません。支えられていた人がいない場合は、実際に埋葬を行って費用を払った人が、5万円の範囲内で実費の分を受け取れます。霊柩車の代金、火葬料、僧侶への謝礼といった実費を足し上げた額。こちらの5万円は頭打ちの数字なので、実費がそれより少なければ、受け取れるのはかかった分までです。退職してまもなく亡くなった場合は、勤務先の健康保険と市区町村のどちらから出るのかが分かれるので、申請の前に両方へ聞いてください。
どちらの給付にも、2年ほどで請求できなくなる時効が置かれています。起算日は制度で少し違い、国民健康保険の葬祭費は葬儀を行った日の翌日から、協会けんぽの埋葬料は亡くなった日の翌日からの計算。会葬礼状や、葬儀を扱った会社の領収書は捨てないでください。喪主だと分かる書類として、申請のときに使うものです。2年あると思って先に処分してしまうと、そこで手が止まります。
あとから届く封筒が、もう1通あります
そして、忘れたころに届く封筒があることも、頭に入れておいてください。介護保険料と後期高齢者医療の保険料は、月割りで計算し直される決まりです。横浜市は、死亡などで介護保険料を計算し直した結果、納めすぎになった分を還付すると案内しています。後期高齢者医療の保険料も、資格を失った日の属する月の前月までを負担する形。逆に足りなければ、変更後の納付書が送られてきます。自分の家がどちらになるかは、市区町村の保険料の担当に「精算の通知はいつごろ届きますか」と聞けば見当がつくはずです。手続きが全部終わったころに封筒が届く市区町村もあるので、親の住所あての郵便は、しばらく受け取れるようにしておいてください。実家に誰も住んでいないなら、同じ担当に「通知を自分の住所へ送ってもらえますか」と伝えておく手もあります。
還付の知らせが来るのは、電話ではなく文書です。横浜市は、市の職員が還付金があると電話をかけることはなく、ATMの操作を求めることもないと注意を出しています。電話でATMへ行けと言われたら、それは市区町村からの連絡ではありません。
3か月と10か月は、急いで動かなくて構いません
3か月と10か月という区切りに入るのは、相続放棄と相続税の2つです。相続にまつわる用事はほかにもありますが、日を数えて動く必要があるのはこの2つ。残りは、家族の都合に合わせて進めて構いません。
3か月で決めるのは、受け継ぐかどうか
3か月のほうは、相続放棄です。自分が相続人になったと知った日を起点にして、そこから3か月を数えます。亡くなった日そのものが起点ではない点に、気をつけてください。持ち込む窓口は、親が最後に暮らしていた地域を受け持つ家庭裁判所になります。
この3か月で本当にやることは、親に借金があったかどうかを確かめる作業です。受け継ぐかどうかを決める材料が、そこにしかありません。手がかりは、郵便物と通帳の2つ。消費者金融や信販会社からの封書、保証人になったことを示す書類、通帳から毎月同じ額が引き落とされている行。四十九日を過ぎている家も同じで、いま届く郵便は捨てずに箱へ入れておいてください。調べても分からないまま3か月が来そうなときは、家庭裁判所に期間を延ばしてもらう申立てがあります。この申立て自体を3か月のうちに出す点だけ、気をつけてください。限定承認という3つ目の選び方や、家庭裁判所に出す申述書に何を添えるのかといった細かいところは 相続の手続きは、必要書類をそろえる前に相続人を確かめます のほうで、戸籍を集める段取りと一緒に書き並べてあります。
10か月に振り回されない家も、あります
10か月のほうは、相続税の申告と納税です。起点は亡くなった日そのものではなく、それを知った日の翌日に置かれています。ただ、この10か月に振り回される家は、思ったより少ないはずです。遺産の総額が基礎控除の枠に届かない家では、税務署へ出す書類そのものが生じません。枠に収まるかどうかの見分け方と、基礎控除がいくらになるかの数え方は 相続税は、基礎控除を超えた家だけにかかります にまとめてあるので、心配な家はそちらを先に見てください。超えないと分かった時点で、10か月という数字は頭から外して構いません。
どちらも、過ぎてから持ち込めます
期限を過ぎてしまった場合の行き先も、決まっています。3か月なら家庭裁判所、10か月なら親の住所地を受け持つ税務署。どちらも、自分で手遅れだと決める前に、事情を話しに行ってください。受け付けてもらえるかどうかは家ごとの事情によりますが、黙って日を送るよりは前へ進むはずです。
期限がないものほど、忘れたままになります
期限のない手続きでも、放置すると毎月お金が出ていくものがあります。電気、ガス、水道、携帯電話、それに新聞や有料放送のような会員契約。どれも、誰かが連絡するまで自動では止まりません。
先に止めてはいけないものが、1つあります
順番を間違えると、支払いだけが宙に浮きます。引き落としに使っていた口座を先に止めてしまうと、料金の支払いが通らなくなるためです。契約が生きたまま、未払いだけが積み上がる形。京都市は上下水道について、使用をやめる手続きか名義を変える手続きが要る場合があると案内していました。水道の扱いは市区町村で違うので、検針票に載っている連絡先にかけて確かめてください。電気やガス、通信は、それぞれの会社に連絡するしかありません。
検針票や請求書、スマートフォンの明細をひととおり集めて、契約の一覧を紙に書き出してください。名義を親から誰かに移すのか、契約そのものをやめるのかを、1件ずつ決めていく作業になります。口座をいつ止めるかは、金融機関に相談してから決めてください。銀行の窓口で「引き落としがいくつか残っています」と先に伝えると、どの順で動けばいいかを教えてもらえるでしょう。
1つだけ、放っておけないものがあります
期限がないと思われがちなものの中に、1つだけ期限のあるものが混じっています。不動産の名義を書き換える相続登記です。取得したと知った日から3年以内に申請する義務があり、正当な理由なく放っておくと10万円以下の過料の対象になります。過料は罰金ではなく、行政上の負担。義務化より前に相続していた土地も対象で、2027年3月31日という締め切りが置かれています。住まない実家をどうするか、名義を書き換えたその先で待っている維持費の話は 実家を相続したら、どうすればいいですか に譲りました。
一度に案内してくれる窓口は、ありますか
葬儀の後の手続きで判断に迷ったときは、親が住んでいた市区町村におくやみ窓口があるかどうかを先に調べてください。予約の段階で家の事情を聞き取り、当日は申請書づくりを手伝って各担当課まで案内してくれる仕組みで、市の名前を挙げた例は、冒頭で挙げた亡くなった後の手続きの記事に書いてあります。設けている市区町村ばかりではありませんし、あってもそこで全部の申請が終わるとは限りません。予約の締め切りも市によって違うので、代表番号にかけて「お悔やみの手続きを一度に見てもらえる窓口はありますか」と切り出してください。
年金だけは、市区町村の窓口では片づきません。死亡の届出も未支給年金の請求も、年金事務所か街角の年金相談センターが行き先になります。郵送でも電子申請でも出せますが、対面で相談したいなら予約が要るところです。介護の相談はどこにすればいいですか が並べているのは介護の相談先で、ここまでに挙げた届出の窓口とは別のもの。使う場面が違うので、混ぜずに持ち込んでください。
判断に迷う場合は、相談できる窓口があります。
