
介護にかかったお金と手間を、相続の場で考慮してもらう道はあります。自動で上乗せされる仕組みではないので、こちらから持ち出して根拠を示す必要があります。ただ、持ち出すための制度そのものは用意されている。
道は2つに分かれます。自分が相続人なら寄与分、相続人でないなら特別寄与料。後者には6か月と1年という短い期限がついているので、そこは先に押さえてください。
正直なところも書いておきます。介護をした時間がそのまま金額に置き換わる制度ではありませんし、通らない事案もある。それでも打てる手は残っています。以下は、要件、期限、そろえる材料、話の持ち出し方の順。
介護をした分は、相続で増えるのですか
介護をした分を相続で考慮してもらう仕組みは、寄与分といいます。きよぶん、と読む言葉です。使えるのは、自分が相続人である場合だけ。親の子であれば、そこで迷う必要はありません。
民法は、被相続人の療養看護その他の方法によって財産の維持または増加について特別の寄与をした共同相続人がいるとき、その人の相続分に寄与分を加えると定めています。介護が入るのは、このうちの療養看護。家業を手伝った場合、お金を出した場合と並ぶ、3つ目の型。
認められるために求められるものを、裁判所は4つに整理しています。特別の寄与といえること。財産の維持または増加と、その働きとのあいだにつながりがあること。その働きに対して対価を受け取っていないこと。そして、亡くなるまでのあいだの寄与であること。
3つ目でつまずく家があります。親から毎月いくらか渡されていた場合、それが介護に対するお礼だったと見られると、対価を受け取っていたことになるからです。だからといって、受け取った記録を隠さないでください。生活費として預かっていたのか、自分への報酬だったのか。説明できる状態にしておくほうが、後で効いてくるはずです。
通るかどうかを分けるのは、減らずに済んだ額です
通すために要るのは、きょうだいとの差ではなく、親の財産がいくら減らずに済んだかという数字です。制度が見ているのは、そこ一点。ヘルパーを頼まずに自分が入浴と食事を担ったなら、その分は外へ出ていくはずだったお金です。そこを金額にして出せたときに、話は制度の土俵に乗ります。
では、その金額をどう出すのか。訪問介護を頼んだ場合の利用者負担は、1割負担の人で身体介護が30分以上1時間未満なら1回387円、生活援助は45分以上で1回220円。これは1割負担の人が払う額で、頼んでいれば親の財布から出ていた額にあたります。自分が入浴や食事を引き受けた回数に掛ければ、見当が立つはずです。回数の数え方が分からないなら、地域包括支援センターに「同じ介護を訪問介護で頼んだ場合の費用の目安を知りたい」と聞いてください。
裁判所が引いている線も、隠さずに置いておきましょう。求められるのは、親族のあいだで通常期待される程度を超えた貢献です。ほかの相続人と比べて自分のほうが多くやった、という差のほうは、それだけでは寄与分の理由になりません。きょうだいが動かなかったことを並べる代わりに、いま出した数字を並べる。持ち出す材料を入れ替える、というだけの話です。
もう1つ。寄与分は、亡くなった時点であった財産から遺贈の分を引いた残りを超えられません。介護に使った実費のほうが遺産より大きい家では、そもそも出てくる原資が足りない。ここは期待をふくらませないほうが、後で落胆せずに済みます。
時間の区切りは、10年で引かれます
時間の区切りも、あとひとつ。相続が始まってから10年を過ぎた後の遺産分割では、寄与分を考慮した分け方を求められなくなります。2023年4月1日から入ったルールで、書面が散らばり関係者の記憶も薄れていくことが理由とされました。10年を過ぎても、相続人の全員が合意すれば従来どおりの分け方はできる。ただ、全員の合意が要るという時点で、越える壁は高くなる。
相続人でない親族にも、請求できる道があります
相続人でない親族が介護を担ってきた場合には、特別寄与料という別の仕組みがあります。とくべつきよりょう、と読む言葉。相続人に対して、お金を払うよう請求できる制度です。
対象になるのは、亡くなった人の親族。子の配偶者は1親等の姻族にあたるので、この親族に入ります。長男の妻が義理の親と同居して、通院の付き添いから夜間の対応まで引き受けてきた。こういう家が、まさに想定されています。相続人、相続を放棄した人、相続権を失った人は、対象から外れる。
この仕組みは、介護と相続の不公平を国が認めて作ったものです。法務省の資料は、相続人でない人は介護に尽くしても相続財産を取得できず、一方で介護を全くしていない相続人は財産を受け取れる、という状態を問題として挙げていました。だから、相続人以外の親族が療養看護を行った場合に、相続人へ金銭を請求できることにした。手当てとして入ったのが、この制度です。
条件は、条文にはっきり書かれています。無償で療養看護その他の労務を提供したこと、そしてそれによって財産の維持または増加について特別の寄与をしたこと。給料や謝礼を受け取っていた場合には、無償という言葉から外れます。お金を出しただけの場合も、労務の提供という文言には乗りません。
6か月と1年、早いほうで閉じます
ここが、この記事でいちばん取り落としてほしくないところ。期限が2本あり、早いほうで閉じます。1本目は、亡くなったことと誰が相続人かを知った時から6か月。2本目は、亡くなった時から1年です。どちらかが来た時点で、家庭裁判所へは持ち込めなくなります。
初七日、四十九日、一周忌。法事の間隔で動いていると、6か月はすぐに来ます。のんびりしていたから間に合わないのではなく、もともと短く置かれた期限です。遺産分割の話し合いが始まるころには、もう半年が近い家も多いでしょう。介護をしてきた立場で相続人ではないなら、亡くなった日をカレンダーに書き、そこから6か月後に印を付けておいてください。
過ぎてしまった人のために、1つだけ。閉じているのは、家庭裁判所に決めてもらう道です。相続人が自分から支払うことまで法律が止めているとは読めませんが、期限を過ぎた後の扱いを説明した公的な案内は確かめられませんでした。時間が経ってしまっているなら、まず弁護士か司法書士に事情を話してください。
誰に、いくらを請求しますか
請求する相手は、遺産ではなく相続人です。相続人が複数いれば、それぞれが自分の相続分の割合に応じて負担します。3人いるなら、3人に分けて請求する形。誰か1人にまとめて突きつける仕組みではありません。
義父と10年同居して介護してきた長男の妻が、義父の死後に義理のきょうだいから「相続人ではないから」と言われた例があります。この人が動けたのは、四十九日の席で司法書士に相談したからでした。6か月という期限をそこで教えられ、義理のきょうだい2人に文書で申し入れています。裁判所へは行かずに、支払いの額が話し合いで決まりました。
そろえるのは、時期と方法と程度の3つです
寄与分でも特別寄与料でも、示すよう求められるのは、寄与の時期と方法と程度です。いつからいつまで、何を、どれくらいやったのか。この3つが分かる材料を集めるところから始めてください。
裁判所は、申立てのときに寄与の時期、方法、程度その他の事情を明らかにして書き、その裏づけになる資料も出すよう案内しています。条文の側も、家庭裁判所は寄与の時期、方法、程度を考慮して額を定めると書いている。求められているものは、両方で一致しています。
では、何を集めればよいのでしょうか。裁判所が持ち物のリストを配っているわけではないので、ここから先はこちらの見立てになります。時期を示すのは、通院の記録やサービスの利用票のように、日付が入っているもの。方法を示すのは、介護の日誌、ケアマネジャーとのやりとり、施設や病院とのメールのように、自分が何をしていたかが分かるものです。程度を示すのは、量が数えられるもの。通院に付き添った回数、夜間に起きた回数、仕事を休んだ日数。
立て替えたお金は、別の型として主張できる余地があります。寄与の中身には、労務の提供のほかに財産上の給付という型が置かれているからです。施設の費用、おむつ代、通院のタクシー代。親のために自分の財布から出したものは、介護の手間とは分けて集めておいてください。
レシートを1枚も残していない、という人もいるはずです。そこからでも埋められる、というのがこの節の言いたいところ。銀行の取引明細とカードの利用明細を取り寄せれば、口座から出た分の日付と金額はそのまま戻ってきます。現金で払った分は、覚えている範囲で月ごとに書き出す。曖昧なところは「このあたりは記憶で書いた」と添えたまま残しておけば、後から直せます。
早く手をつけたほうがよい理由も、先に書いた10年の区切りと同じところ。いま思い出せることは、いま書けば残ります。半年前の通院の回数は言えても、3年前の分は表を作らないと出てきません。
兄弟にどう伝えながら残していくかは 兄弟と介護の話を、どう切り出せばいいですか に、親の口座から出した分と自分が立て替えた分の分け方は 認知症で親の口座が止まったときに、まだ残っている道 に書いてあります。
どうやって主張しますか
寄与分の主張を持ち出す先は、まず遺産分割の話し合いの席です。家庭裁判所は、その先に置かれています。
順番は、法律のほうでもそうなっていました。寄与分は共同相続人の協議で定めるものとされ、協議が調わないとき、または協議ができないときに、家庭裁判所が定めると書かれている。話し合いが先で、裁判所は後。制度の側がその並びで作られているのですから、まず話し合いの席から始めて構わないでしょう。
調停に入った後でも、寄与分の申立てを必ず出さなければならないわけではありません。裁判所の案内は、まず調停の中で寄与分を主張し、それを踏まえた分け方に合意できるなら、申立てそのものは要らないとしています。ただし審判に進んだ場合は、寄与分を定める処分の申立てが別に必要。申立ての期間を裁判所が定めることもあり、それを過ぎた申立ては却下されることがある。
もう1つ、勘違いされやすいところ。寄与分だけを取り出して裁判所に訴える手続きは、用意されていません。遺産の分割を家庭裁判所に請求している場合に、その中で寄与分を定めてもらう形になります。つまり、遺産分割の話と切り離しては動かせない仕組み。
では、遺産分割がもう済んでしまった家はどうなるのか。分割が終わった後に打てる手が残っているかどうかは、そのときの中身によって変わります。協議書の写しと、話し合いの席で介護の話を出したかどうかを持って、弁護士か司法書士に「分割が終わった後でも、介護の分を主張できますか」と聞いてください。済んだ時点で自分から線を引く必要は、ありません。
話し合いが止まったときに、机へ載せるもの
話し合いが止まるのは、机に載っている材料が足りないときです。自分ばかり大変だったという言い方だけで始めると、返ってくるのは相手の事情の説明。仕事があった、遠かった、子どもが小さかった。どれも嘘ではないので、そこで話が動かなくなります。伝え方が悪いのではなく、そろえた材料を先に出すかどうかの問題。
置き換えるのは、期間と回数と金額の3つ。2019年4月から2026年3月まで、通院の付き添いが月に4回、夜間の対応が週に2回、施設の費用の立て替えが合計でいくら。こう並べると、相手が反論する対象は自分の人格ではなく、数字になります。数字への反論は、記録で返せる。
きょうだい3人のうち1人が母の介護を6年担った家では、話し合いが二度こじれた後、この人が1枚の表を作っています。年ごとの通院の回数、ショートステイを使った日数、自分が立て替えた額の合計。それを見せた後の話し合いで、実家をその人が取る形にまとまりました。金額としての寄与分は決めずに、分け方のほうで折り合った形。
調停に持ち込むと、いくらかかりますか
話し合いでまとまらなかったときに使えるのが、寄与分を定める処分の調停です。申し立てるのは特別の寄与をした相続人で、相手方になるのは自分以外の共同相続人の全員。納めるのは、申立人1人あたり収入印紙1,200円分。ほかに連絡用の郵便切手も要ります。この1,200円は裁判所へ渡す手数料の額で、切手のほうは裁判所ごとに違う。額は2026年8月に確認したものです。相手方が全員になるので、申立書の写しはきょうだい全員に届きます。調停がまとまらなければ、そのまま審判の手続きへ移る形。
調停を選ぶ実利も、1つ挙げておきます。裁判所の案内によれば、審判では扱えない葬儀費用や使途不明金といった付随する問題も、調停なら全体として話し合える。介護のために立て替えた費用を机に載せたいなら、こちらのほうが通り道は広いでしょう。
相続人でない立場で申し立てる場合は、特別の寄与に関する処分の調停になります。費用は同じく収入印紙1,200円。申立書の写しが相手方の全員に届くのは、さきの寄与分の調停と同じ。義理のきょうだい全員に書面が渡ることになるので、申し立てる前に、その後の付き合いをどうするかまで考えておいてください。
誰が話し合いに加わり、何を決めれば分割が成立したことになるのかという遺産分割の段取りは、相続の手続きは、必要書類をそろえる前に相続人を確かめます に一続きで並べました。
通らなかったときに、打てる手が3つあります
介護をしてきたのに寄与分が認められない、という結果もあります。同居していただけと見られた場合や、子として当然の範囲だと判断された場合です。
背景にあるのは、民法が直系血族と兄弟姉妹に互いを扶養する義務を定めていることでしょう。子には、もともと親を扶養する義務がある。だから、その範囲に収まると見られた働きは、寄与分としては数えられません。
ただし、扶養義務があるから寄与分は認められない、という短絡はしないでください。条文が定めているのは義務があることだけで、寄与分の線引きを書いたものではありません。
分かれ目になりやすいのは、通常期待される程度を超えたかどうかという点。週に1度の様子見と、24時間の見守りを何年も続けた状態は、同じ扱いにはなりません。ただし、何年やれば認められるという目安を出せる公的な線引きは見当たりませんでした。介護期間の長さや要介護度で機械的に決まる話ではないので、そこは家庭裁判所と専門職の判断に委ねられます。
通らなかったとき、あるいは通りそうにないときに、次に打てる手を3つ。
1つ目は、遺産分割そのものの中で折り合いをつけること。寄与分として認めさせなくても、実家は自分が取る、預金は多めに受け取る、という分け方に全員が合意すれば、手元に残るものは同じです。相続人がそろって納得するなら、裁判所の判断は要りません。
2つ目は、立て替えた費用を切り分けて請求すること。介護の手間そのものではなく、自分の財布から出した実費なら、話の性質が変わります。施設の費用も、おむつ代も、通院のタクシー代も、明細が残っている分から並べてください。
3つ目は、ここから先に同じことが起きないようにする道です。親がまだ元気な家に向けた話になりますが、遺言を書いてもらえば、介護を担った人へ渡す形を先に決めておけるところ。法務局が自筆の遺言を預かる制度があり、原本を50年、画像のデータを150年保管するとされています。預けておけば破棄や書き換えを防げますし、亡くなった後の検認も要りません。もう1人の親が健在なら、そのときに効いてくる手。
介護をした時間が、そのまま金額に置き換わる制度ではありません。そこは正直に書いておきます。ただ、記録を集めること、外へ出ていくはずだった額に置き換えること、その数字を分け方の話し合いに持ち出すこと。親を送った後でも、この3つは今日から手が届きます。何年も1人で担った時間を、ここから材料に変えていく作業です。
金額の見通しは、裁判所では聞けません
寄与分や特別寄与料で判断に迷ったときは、聞きたいのが手続きの話なのか、見通しの話なのかで相手が変わります。手続きのほうは、家庭裁判所の家事手続案内。どの申立てをすればよいか、費用と添付書類に何が要るかまで説明してくれる窓口で、1件あたり20分ほどが目安とされています。いくらもらえるか、申し立てたほうがよいかといった相談には応じられない、とはっきり書かれている。受付の時間は家庭裁判所ごとに違うので、行く前に電話で確かめてください。
見通しと金額の話は、弁護士か司法書士のほうへ。相談にいくらかかるかは事務所ごとに違うので、電話で「相談は1回いくらですか」と先に聞いてください。介護の相談はどこにすればいいですか にまとめてあるのは介護の側の相談先で、寄与分を持ち込む窓口ではありません。持ち込む先が違うものとして、分けて考えてください。
判断に迷う場合は、相談できる窓口があります。

