
実家を相続しても、売るか残すかを今すぐ決める必要はありません。ただし名義を自分に移す登記だけは、法律で期限が引かれています。そこを先に片づけておけば、あとの判断は自分たちの都合で進められるはずです。
期限は3年。起算点は、亡くなった日ではありません。相続が始まったと知り、なおかつその家が自分のものになったと分かった日から数えます。知らないまま過ぎた人には、10万円以下の過料という制裁が用意されました。
きょうだいで話がまとまらないから登記できない、と止まっている家もあるでしょう。そこにも、1人で打てる手が別に置かれています。以下、登記、持ち続ける費用、売る、貸す、決めずに置く、の順。売る道も貸す道も持ち続ける道も、それぞれ向く家があるので、優劣はつけません。
先に手をつけるのは、名義の書き換えです
実家を相続してから最初に手をつけるのは、名義を親から自分たちへ移す相続登記です。住むつもりがあってもなくても、売る気があってもなくても、ここは通らなければなりません。
期限の3年は、いつから数えますか
申請の期限は3年です。数え始めるのは亡くなった日ではなく、相続が始まったことを知り、かつその不動産を自分が取得したと知った日から。親が亡くなったことは早くに知っていても、その家が自分のものになると分かったのが遺産分割の席だった、という家もあるでしょう。だから、いつから3年なのかは自分で書き留めておいてください。
相続登記の義務化が始まったのは、2024年4月1日でした。それ以前に相続した不動産も対象から外れてはおらず、こちらの申請の締め切りは2027年3月31日と定められています。2026年8月から数えると、残る時間は7か月ほど。何代か前の名義のまま止まっている土地を抱えているなら、そこから先に手を回してください。
怠ったときに待っているのが、10万円以下の過料です。正当な理由がないのに申請しなかった場合に科されるもので、10万円というのは上限の額。刑罰ではないため、前科にはなりません。
過ぎてしまった人が、今から打てる手
ただし、期限を過ぎた瞬間に裁判所へ通知が行くわけではないという点も、あわせて知っておいてください。規則では、登記官が相当の期間を定めて申請するよう催告し、それでも出てこないときに限って通知する、と定められています。すでに過ぎてしまった人が今から打てる手は、催告を待たずに申請してしまうことです。放っておいてよいという意味には、受け取らないでください。
正当な理由として法務省が挙げているのは、相続人が非常に多くて戸籍を集めるのに時間がかかる場合、遺言の効力や遺産の範囲そのものを争っている場合、義務を負う人が重い病気にかかっている場合、配偶者からの暴力を受けていて身の安全に関わる場合、そして登記の費用を出す力がない場合です。ここに「きょうだいの話し合いがまとまらない」は入っていません。ただ、それで手が塞がるわけでもない。話し合いが止まったままの家のために、別の道が置かれています。
話し合いが止まっている家には、1人で打てる手があります
そこで用意されたのが、相続人申告登記という仕組みです。登記官に対して、亡くなった人について相続が始まったことと、自分がその相続人であることを申し出るだけの手続き。3年の期間内に申し出れば、申請の義務を果たしたものとみなされます。効くところが3つ。法定相続人の範囲や相続分の割合を確定させなくてよいこと、相続人の1人が単独で申し出られること、そして登録免許税がかからないことです。押印も電子署名も要りません。持っていくのは、申出書、自分が登記上の所有者の相続人だと分かる戸籍の証明書、それに自分の住所を示す書類。
これで全部が済むわけではない、という断りも要ります。相続人申告登記は、誰がその不動産を持っているかを世の中に示す仕組みではありません。売るとき、あるいは住宅ローンのために抵当権を設定するときには、あらためて相続登記を申請することになります。
二度目の3年があることも、覚えておいてください。法定相続分どおりに登記をした後で遺産分割が成立し、自分の相続分を超える持分を取得したなら、分割の日から3年以内に登記を申請しなければなりません。相続人申告登記で一度目をしのいだ人にも、話し合いがまとまった時点から同じ期限がかかります。先送りではなく、期限を1回ずらす仕組みだと思っておいてください。
登記にかかるのは、税と司法書士の報酬です
登記そのものにかかる税は、不動産の価額の0.4%です。土台になるのは、原則として固定資産課税台帳に登録された価格。毎年4月ごろに届く課税明細書に載っている評価額が、それにあたります。評価額1,000万円の実家なら4万円という計算です。これは法務局へ納める税であって、手数料でも司法書士への報酬でもありません。司法書士に頼む場合の報酬は事務所ごとに違い、公的な相場を確かめられませんでした。2つか3つ見積もりを取って比べるほうが早いでしょう。
名義を移した後にも、2年の期限が来ます
自分の名義にした後についても、1つ。所有者の氏名や住所が変わったときにも、変更から2年以内に登記を申請する義務が置かれました。2026年4月1日に始まった決まりで、怠ると5万円以下の過料の対象になります。この5万円も上限の額です。施行より前に引っ越して変更登記をしていない場合は、2028年3月31日が締め切りとされています。
誰が相続人なのかを戸籍で確定させるところから、この登記にたどり着くまでの段取りの全体は、相続の手続きは、必要書類をそろえる前に相続人を確かめます のほうに順を追って書き出しました。
住まない家は、持っているだけでいくらかかりますか
住まない実家にかかる額は、固定資産税と火災保険料、それに水道と電気の基本料金を足した分です。金額はもう、親の家に届いた書類の中にあります。名義が移った時点から、その負担は親のものから自分のものへ移るところ。固定資産税の納税通知書も、火災保険の更新の案内も、宛名が親から自分になる。
合計を出すのに要るのは、前の年の固定資産税の納税通知書に載っている年税額、火災保険の証券に書かれた保険料、それに水道と電気の検針票の基本料金です。1年分ずつ足してから12で割ると、この家を空けたまま置いておく1か月の値段が出ます。実家に入るのがつらくて手をつけられていないなら、郵便受けにたまった封筒を持ち帰るところから始めて構いません。
固定資産税を負担するのは、その年の1月1日に所有者として把握されている人です。税率は標準で1.4%とされ、市区町村が条例で動かすこともできます。空き家の相続で税金の話が難しくなるのは、この標準の率だけでは実額が出ないから。評価額も、上乗せの有無も、市区町村ごとに違います。納税通知書を手元に置いて、資産税課に「この土地の軽減はどうなっていますか」と聞くのが早道でしょう。
土地の税が抑えられているのは、そこに家が建っているからです。住宅用地特例といって、課税標準が6分の1まで下がる仕組み。6分の1になるのは200平方メートルまでの部分で、それより広い分は3分の1にとどまります。都市計画税のほうも同じ考え方で下がり、こちらは3分の1と3分の2。人が住んでいなくても、建物が残っていれば外れません。
そのままにしておくと、どうなりますか
外れる場面は、あります。空家等対策の推進に関する特別措置法の改正法が2023年12月13日に施行され、管理不全空家等という枠組みが加わりました。そのまま放っておけば特定空家等になるおそれがある状態を指すもので、倒れかけるより手前の段階です。市区町村がまず指導し、それでも直らないときに勧告へ進む。勧告まで進むと、その土地は軽減の枠から抜けてしまう。
賦課期日である1月1日までに手を入れていなければ、その年から税額が上がると東京都は説明しています。1月1日が基準になる点は他の市区町村でも共通ですが、どの段階で勧告に進むかの運用まで同じとは限りません。実家のある市区町村の資産税課と空き家の担当課に、そこは確かめてください。
倍率は書きません。負担を調整する仕組みが別に働くので、軽減の割合がそのまま税額の跳ね上がり方にはならないからです。いくらになるのかを知りたいなら、資産税課に「勧告を受けると、この土地の固定資産税はいくらになりますか」と聞いてください。覚えておきたいのは、勧告の前に指導という段があるということ。伸びた庭木を切り、外壁や屋根が落ちそうなところを直せば、そこで話は終わります。遠方に住んでいると、その年に何度かの往復がそのまま負担。自分で通えないなら、市区町村の空き家の担当課に「見回りや庭木の手入れを頼める先はありますか」と聞いてみてください。
火災保険は、そのまま続くとは限りません
火災保険は、名義の変更とあわせて確かめておく必要があります。契約者が亡くなった後の扱いも、住む人がいなくなった建物の補償も、保険会社ごとの判断によるところ。加入している会社に、相続で自分が引き継いだこと、いまは誰も住んでいないことの2点を伝えて、このまま補償が続くかを聞いてください。
母の家を兄と2人で相続した人が、最初の1年でかかったものを書き出しました。気づいたのは、金額よりも回数のほうです。庭木の剪定が年に2回、郵便物の整理に月1回、水を流しに行くのに月1回。半分ずつ持つと決めていたのに、実際に動いていたのは近くに住む自分だけでした。この人はその一覧を兄に送り、翌年から剪定の手配を兄に引き受けてもらっています。同じ一覧を送っても、返事すら来ない家もあるでしょう。それでも、払った額と通った回数の記録は残しておいてください。後で分け方を話すときに、そのまま材料になります。
売るときの特例は、年末で閉じます
相続した実家を売るなら、税の特例に年末という区切りがあることを先に知っておいてください。相場を見ながら待っているうちに、使えたはずの控除が閉じてしまう。急いで売れという話ではなく、締め切りを知ったうえで決めてほしいという話です。
親が住んでいた家を相続して売ったとき、譲渡所得から最高3,000万円まで差し引ける仕組みがあります。空き家の特別控除と呼ばれるもの。相続人が3人以上いる場合の控除額は、2,000万円にとどまります。どちらも所得から差し引ける額であって、手元に戻ってくるお金ではありません。3人以上というのが誰の人数を指すのかは、税務署に「相続人が3人いる家では、控除はいくらになりますか」と聞いて確かめてください。
先に来るほうが、自分の期限になります
ややこしいのは、期限が二重にかかっているところでしょう。1つ目は制度そのものの終わりで、2027年12月31日までに売ったものが対象とされています。2つ目は、家ごとに動く期限。数え方は、亡くなってから3年たつ日を出し、その日が入っている年の12月31日まで。つまり、3回目の年末が最後。この2つの日付を紙に並べて、先に来るほうが自分の期限です。引き算はここで終わりにして、その日だけを覚えておいてください。
要件のうち、書類を見なくても分かるもの
要件のうち、自分で見分けられるものが4つあります。1つは建築の時期で、1981年5月31日以前に建てられた家であること。建てられた年が分からないなら、法務局で登記事項証明書を取れば確かめられます。2つ目に、売った代金が1億円を超えないこと。3つ目は、相続してから売るまでのあいだ、誰かに貸したり自分が住んだりしていないという条件。そして4つ目が、耐震基準を満たすように直すか、建物を壊してから引き渡すかという選択になります。この1億円は、もうけではなく売却代金そのものの上限です。
自分の家に使えるかどうかは、書類を見ないと分かりません。親が老人ホームに入っていた場合の特則や、市区町村が出す確認書の要否など、条件がいくつも重なるためです。建物の建築年が分かる書類と登記事項証明書、それに売却の予定を持って、税務署か税理士に見てもらってください。
決めきれないまま2回目の年末を越えた家がありました。買い手の候補はいたのに、きょうだいの1人がもう少し様子を見たいと言い、話が翌年に回ったからです。3回目の年末が近づいて税理士に相談したところ、この控除を使えるのは今年いっぱいだと分かりました。結局その年の12月に引き渡し、控除は間に合っています。急かされて売ったのではなく、締め切りを知ったうえで自分たちで決めた形でした。
3回目の年末を越えてしまった家もあるでしょう。控除が閉じても、売った代金にかかる譲渡所得の計算そのものは残ります。売る前に、税務署か税理士に「この控除が使えない場合、税はどうなりますか」と見てもらってください。売り時の判断が変わることもあるので、越えたからといって黙って抱え込まないほうが早い。
売った後に相続税がどうなるかは、また別の話になります。売った代金に税がかかるのか、そもそもこの家で相続税が出るのかという入口の話は、相続税は、基礎控除を超えた家だけにかかります のほうに置きました。
誰かに貸すことは、できますか
相続した実家を人に貸す道は、選べます。空けたままにするより建物は長持ちしますし、入ってくる家賃を維持の費用に回せる。売るか持ち続けるかの二択で考えなくて構いません。
引っかかるとすれば、名義が1人になっていない場合でしょう。共有物に変更を加えるには他の共有者全員の同意が要る、と民法は定めています。一方、管理に関することは持分の価格に従って過半数で決められる。売却は全員の同意、貸すことは持分の過半数。
費用の分け方も、同じ法律に書かれています。共有者はそれぞれの持分に応じて管理の費用を負担する、という定め。固定資産税を自分1人が払い続けている状態は、この定めから外れています。1年たっても他の共有者が負担に応じないときには、相当の償金を払ってその人の持分を取得できる、という手も置かれました。ただし償金の額でもめるところなので、使うなら司法書士か弁護士を先に挟んでください。
貸すと決めたら、修繕にいくらかかるかを先に出しておきます。長く使った家ほど手が入るのは、水回りと床。額は建物ごとに違うので書けませんが、見積もりは不動産の会社に頼めば取れます。借りた人にいつまでも住まれると困る、という心配があるなら、「期間を区切って貸す形にできますか」と最初に聞いてください。
共有のまま置いておくことの怖さは、時間のほうにあります。きょうだい3人の共有で登記した実家を、誰も動かさないまま20年置いたとしましょう。1人が亡くなれば、その持分はその人の配偶者と子へ分かれていきます。3人だった共有者が5人になり、その次の相続で8人に増えていく。全員の同意が要る売却は、その時点でほとんど動かせません。共有にするなら、割合を決めるだけでなく、いつ解消するかまで話しておいてください。
父の家を姉と2人の共有で相続し、当面はそのままにした家があります。空き家のままでは傷むという話になり、姉が知り合いに貸そうと言い出しました。持分は半分ずつなので、過半数に届くのは2人がそろって賛成したときだけ。貸すこと自体はすぐ決まり、家賃の分け方と修繕費の出し方を紙に書いてから契約しています。決められたのは、どちらが決めてよいのかという線を先に確かめたからでしょう。
保留にするなら、見直す日を1つ決めます
実家をどうするかの結論は、保留にして構いません。相続してすぐに答えを出せる家のほうが、むしろ少ないでしょう。親の物が残ったままの家で、売る貸すの話をいきなり進められるものでもありません。
そのかわり、期限のついたものだけは切り離して先に片づけます。登記は3年、それより前の相続なら2027年3月31日。空き家の特別控除を当てにしているなら、3回目の年末と2027年12月31日。迷っている時間は、この締め切りを止めてはくれません。
保留にするなら、いつ見直すかを書いておいてください。半年後でも1年後でも構わないので、日付を1つ決める。そのときに確かめるのは、建物の傷み具合と、きょうだいそれぞれの事情、そして自分が通い続けられるかどうかです。どれも大きく動いていないなら、来年の同じ日にまた考えれば足りるはずです。
引き取ってもらう制度もあることだけ、書いておきます。相続や遺贈で土地を取得した人が国に引き取ってもらう、相続土地国庫帰属制度というもの。2023年4月27日より前に相続した土地も、対象に入ります。ただし建物が建っている土地は、申請そのものができません。担保権が設定された土地、土壌が汚染された土地、境界がはっきりしない土地も同じ扱いです。
費用もかかります。審査の手数料は土地一筆あたり14,000円で、これは申請する側が納める額。却下されても不承認になっても、返ってきません。承認された場合には負担金を納めることになり、一筆20万円が基準とされています。この20万円は国へ土地を渡すために払う額であって、受け取れる額ではない。使えるかどうかの窓口は、土地のある都道府県の法務局の本局です。実家の建物を壊してからなら申請できるのかどうかも、そこで「取り壊した後なら申請できますか」と聞いてください。
名義が決まらないうちは、税の話も貸す話も動きません
実家の相続で迷ったときは、いま止まっているのが名義なのか、お金なのか、建物なのかで持ち込む先が変わります。名義と登記のことは法務局と司法書士、税のことは税務署と税理士、建物と敷地の扱いは家がある市区町村の担当課。法務局は登記の相談を受け付けていて、相続人申告登記の手引きも出しています。
実家のことを持ち込む先は、いま挙げた3つです。介護の相談はどこにすればいいですか のほうは介護の相談先を並べたページなので、親の介護で残っている用事があるときに開いてください。
判断に迷う場合は、相談できる窓口があります。

