相続の手続きは、必要書類をそろえる前に相続人を確かめます

誰が相続人にあたるのかは、亡くなった人の戸籍をつないで確定させます。そこが決まらないうちは、預金も不動産も動かせません。銀行も法務局も税務署も、まず相続人の顔ぶれから見るからです。

多くの家が止まるのは、この戸籍集めのところ。本籍を移していれば、その回数だけ請求先が増えていきます。ただ、2024年3月から仕組みが変わり、以前より短い時間で終わる場合が出てきました。

集めるもの、決めること、期限。この3つに分けて並べていきます。誰がどれだけ受け取るのが正しいかまでは、ここでは判断しません。そこは司法書士や税理士、そして家庭裁判所の領分。

何から始めますか

相続手続きの流れは、亡くなった人の戸籍を出生から死亡まで集めるところから始まります。ここが済まないと、誰が相続人なのかが確定しません。

進む順番は、決まっています1戸籍を集める出生から死亡までの全部2相続人が決まるここが決まるまで動かせません3財産を調べる不動産、預貯金、借金4分け方を決める遺言があるか、全員で話すか5名義を変える不動産、預金、車止まるのは、たいてい1段目です

必要なのは、その人が生まれてから亡くなるまでに在籍していた戸籍の全部です。戸籍謄本だけでなく、その戸籍が閉じられた後の除籍謄本、様式が変わる前の改製原戸籍もつなぎます。結婚や引っ越しで本籍を移していれば、その数だけ請求先が増える。仕事の都合で転籍を繰り返した親なら、5つの市区町村にまたがることも珍しくありません。

ここを知っているかどうかで時間が変わるのが、戸籍の広域交付です。2024年3月1日から、本籍地でない市区町村の窓口でも、戸籍証明書と除籍証明書を請求できるようになりました。本籍が全国に散っていても、自宅の近くの1か所でまとめて頼める。それまでは本籍地ごとに郵送で請求していたので、往復するだけで何週間もかかっていました。

ただし、使えない場面もあります。窓口で請求できるのは本人と、その配偶者、父母や祖父母、子や孫です。取れるのは自分から見て縦の系統にあたる人の戸籍に限られるところ。親の戸籍は、子であれば取れる側に入ります。兄や姉、おじやおばの戸籍はこの範囲から外れると読める書き方になっているため、横に広がる家系が絡むと、従来どおり本籍地へ請求することになりそうです。亡くなった人に子も親もいない家では兄弟姉妹が相続人になるので、そこに当たった家だけの話。ほかにも制約があります。コンピュータ化されていない古い戸籍は対象外で、郵送も代理人による請求もできません。請求する本人が窓口に出向き、運転免許証やマイナンバーカードなど顔写真付きの身分証を見せる決まり。その日のうちに全部そろうとは限らないので、日程には余裕を見ておいてください。

集め終わったら、もう1つやっておくと後が楽になる手続きがあります。法定相続情報一覧図です。集めた戸籍と、相続関係を書いた図を法務局へ持って行くと、登記官が内容を確認したうえで、認証文の付いた写しを無料で交付してくれます。これが戸籍の束の代わりになる。預金の払戻し、相続税の申告、年金の手続きと、行き先ごとに戸籍一式を出し直さずに済みます。申出先は、亡くなった人の本籍地か最後の住所地、申出人の住所地、不動産の所在地を管轄する登記所のいずれか。一覧図は、申出をした年の翌年から5年間、法務局に保存されます。

順番だけ、取り違えないでください。一覧図は戸籍集めを省く制度ではありません。集めた後の使い回しを楽にする制度です。

集めるものは、3つのまとまりに分かれます

相続の必要書類は、亡くなった人について、相続人について、財産について、という3つのまとまりで考えると見通しが立ちます。一覧を先に眺めても、どれが自分の家に要るのかは分かりません。

亡くなった人の分は、戸籍だけでは足りません

1つ目は、亡くなった人についての戸籍です。出生から死亡までの戸籍一式に、住民票の除票または戸籍の附票を加えます。附票は、その人がどこに住んでいたかをたどるための書類。不動産の名義を書き換えるときに、登記に載っている住所と最後の住所をつなぐために求められます。

相続人の分は、亡くなった日より後のものを取ります

2つ目は、相続人について。相続人全員の戸籍謄本で、亡くなった日以降に発行されたものが要ります。それに、遺産分割協議書へ押した実印の印鑑証明書。新しく所有者になる人については、住民票も加わります。

財産は、どこに何があるかから調べます

3つ目が、財産について。ここでつまずく家が、いちばん多くなります。親がどこに何を持っていたかを、子が把握していない場合があるからです。

不動産から先に片づけると早い。手がかりは、毎年4月ごろに市区町村から届く固定資産課税明細書です。見当たらないなら、名寄帳という一覧を市区町村の税務窓口で見せてもらう手も。名古屋市は、課税明細書をなくした場合に名寄帳の写しで相続の対象になる物件を把握できると案内しています。お住まいの市区町村でも同じ扱いとは限らないので、税務窓口に「相続人ですが名寄帳を見られますか」と聞いてください。相続関係が分かる書類と本人確認書類を求められるのが通例です。

2026年2月2日から、もう1つ手が増えました。所有不動産記録証明制度といって、亡くなった人が所有権の登記名義人になっている不動産を、全国分まとめて一覧にした証明書を出してもらえます。請求できるのは本人と、その相続人。全国どこの法務局でも、書面でもオンラインでも、郵送でも請求できます。手数料は検索条件1件につき1通あたり、書面で1,600円、オンラインで郵送を頼むと1,500円、オンラインで窓口受取なら1,470円。これは証明書を出してもらうための手数料で、税ではありません。いずれも2026年8月に確認した額です。始まったばかりの制度なので、急ぐなら法務局に日数を聞いてから請求してください。

預貯金のほうは、通帳とキャッシュカード、それに金融機関から届く郵便物が手がかりになります。取引がある銀行が分かったら、その支店に残高証明書を頼む。亡くなった日の残高が、後の話し合いと税の判定の土台。

登記に要る3つは、自分たちで書きます

集める書類とは別に、自分たちで作る書類もあります。不動産の名義を変えるなら、登記申請書、遺産分割協議書、それに相続関係説明図の3つ。説明図は、戸籍の原本を返してもらいたいときに付けるものです。

取り分の決め方は、遺言の有無で二手に分かれます

誰がどれだけ受け取るかは、遺言があればそれに従い、なければ相続人全員の話し合いで決まります。自分の家がどちらなのかを、先に確かめてください。

遺言があるか、ないか遺言がある法務局に預けたもの → 検認は要りません家から出てきたもの → 家庭裁判所で検認遺言がない相続人全員で話し合って決めます1人でも欠けると、成立しません全員が合意すれば、目安と違う分け方にできます

自筆の遺言を法務局に預けておく制度があります。相続人などは、遺言書保管事実証明書という書類を請求することで、自分に関係する遺言が預けられているかどうかを確かめられる仕組み。預けられていた場合、家庭裁判所の検認は要りません。裏を返せば、家の中から出てきた自筆の遺言には検認が必要になります。封を切らずに、家庭裁判所へ持って行ってください。実家を片づけながら封を開けてしまった家もあるでしょう。その場合も、家庭裁判所に「封を開けてしまいましたが、検認はどう進めますか」と聞いてください。公正証書で作られた遺言があるかどうかは、公証役場で確かめる方法も。

遺言がなければ、相続人全員による遺産分割協議に進みます。民法にも、共同相続人はいつでも協議で遺産を分割できると書かれている。いつでも、とあるとおり、協議そのものに期限はありません。期限がつくのは、放棄と税と登記のほう。

協議の当事者になるのは、相続人の全員です。自分が相続人にあたるかどうかで迷う必要はありません。親の子であれば、それだけで第1順位の相続人になります。配偶者は常に相続人で、そこに第1順位の子が加わる形。子がすでに亡くなっていれば、その子、つまり孫が代わりに入ります。子や孫がいないときは第2順位の父母や祖父母、そこもいなければ第3順位の兄弟姉妹。兄弟姉妹が先に亡くなっていれば、その子である甥や姪が当事者になります。会ったことのない親戚に印鑑をもらいに行く事態は、たいていこの代襲相続から生まれるもの。

分ける割合には、法定相続分という目安があります。配偶者と子なら、配偶者が2分の1、子が全員で2分の1。配偶者と父母などの直系尊属なら、配偶者が3分の2、直系尊属が全員で3分の1になります。配偶者と兄弟姉妹なら、配偶者が4分の3、兄弟姉妹が全員で4分の1。両親のうち後に亡くなったほうを送った家は、この3つのどれにも当てはまりません。配偶者がいないので、相続人は子だけ。その全員で遺産を分けることになります。これは目安であって、この割り当てを強制するものではありません。相続人全員が合意すれば、実家は同居していた長男、預金は遠方の次男、といった分け方にできます。

合意の証拠が、遺産分割協議書です。相続人全員が署名し、実印を押し、それぞれの印鑑証明書を添える。1人でも欠ければ、成立しません。印鑑証明書が1通足りないだけで、登記は差し戻されます。連絡が取れない相続人がいるなら、そこを先に片づけてください。連絡は取れるのに動いてくれないきょうだいがいる家も、同じところで止まります。催促を重ねる前に、次の節に並べた3つを順に試す番。それでも席につかないときの行き先が、家庭裁判所の遺産分割調停です。

介護を担った分をどう見るかも、この協議の中で持ち出す話になります。扱いは 介護にかかったお金は、相続で考慮されますか のほうで書きました。

話がまとまらないときは、どうしますか

話がまとまらないときに、いきなり家庭裁判所へ行く必要はありません。先に試せることが、3つ残っています。

1つ目は、財産を確定させること。何がいくらあるのか分からないまま話すと、疑いだけが積み上がります。残高証明書と、さきほどの不動産の一覧をそろえて、同じ紙を全員が見る状態を作る。それだけで折り合う家があります。

2つ目は、期限を共有すること。相続放棄の3か月と、相続税の10か月。この2つを全員が知ると、話の進み方が変わります。期限を伝えるのは急かすためではなく、決めないままだと全員が損をする場面があるからです。

3つ目は、間に人を入れること。きょうだいだけで向き合うと、誰がどれだけ親をみたかという話と、財産をどう分けるかという話が、同じ机の上で絡まります。数年ひとりで親をみた側にとって、その記憶は脇へ置くべきものではありません。ただ、記憶のまま並べると返ってくるのは相手の事情の説明で、分け方の結論には届かないところ。司法書士や税理士のように手続きの側から説明してくれる人が同席すると、話題が財産へ戻る。誰が親をみるかという話し合いそのものの切り出し方については、兄弟と介護の話を、どう切り出せばいいですか で書きました。

それでも折り合わないときに、家庭裁判所の遺産分割調停があります。申し立てるのは相続人の1人か何人かで、相手方は残りの相続人の全員。きょうだいの1人を相手取るつもりでも、書類の上では全員が相手方に並びます。調停がまとまらなければ、自動的に審判へ移る。そこから先は、裁判官が判断します。費用と期間がどれくらいかまでは、この記事では扱いません。申立てを考える段階になったら、家庭裁判所の窓口で手続きの説明を受けてください。

期限があるのは、3つだけです

相続で期限がつくのは、相続放棄と相続税と相続登記の3つです。残りは、急がなくても構いません。

期限がつくのは、この3つ3か月 相続放棄決めきれないなら、期間を延ばす申立て10か月 相続税の申告と納税基礎控除以下の家は、申告そのものが不要3年 相続登記話がまとまらないなら、相続人申告登記過ぎていても、まず窓口へ持ち込んでください

相続放棄の3か月は、知った日から数えます

1つ目の相続放棄は、3か月。数え始めるのは亡くなった日ではなく、自分が相続人になったと知った日から3か月です。起点になる日を、どうやって自分の手帳の日付に置き換えるのか。そこは 親が亡くなった後にやることの順番と、遅れたときの戻り方 の相続の節で、同居していた子の例を挙げて書いています。申し立てる先は、亡くなった人の最後の住所地の家庭裁判所。費用は、申述する人1人につき収入印紙800円と、連絡用の郵便切手です。単位は円で、裁判所へ納める手数料になります。800円という額は、2026年8月の時点のもの。選べる道は、全部を受け継ぐ単純承認、一切受け継がない相続放棄、受け継いだ財産の範囲でだけ借金を引き受ける限定承認の3つ。

3か月では決めきれない家もあるでしょう。そのために、熟慮期間を延ばしてもらう申立てが用意されています。財産を調べてもなお決められない場合に、家庭裁判所が期間を伸ばす仕組み。気をつけたいのは、この申立て自体を3か月以内に済ませなければならないという点です。過ぎてから気づいたときも、家庭裁判所に事情を伝えてください。受け付けてもらえるかどうかはその家の事情によるので、自分で結論を出す前に窓口へ持ち込む。

相続税の10か月は、知った日の翌日から

2つ目の相続税は、10か月です。数え始めるのは、亡くなったことを知った日の翌日。申告書の提出も納税も、この日を過ぎると遅れたことになります。かかるかどうかの見分け方は 相続税は、基礎控除を超えた家だけにかかります にまとめました。

相続登記の3年には、2つの締め切りがあります

3つ目の相続登記は、3年。不動産を取得したと知った日から3年以内に申請する義務が、2024年4月1日から課されました。今回の相続で名義を継ぐ不動産は、この3年のほうで数えます。義務化より前に相続していた土地も、置き去りにはできません。こちらの締め切りは2027年3月31日で、祖父母の名義のまま置かれている土地がこれに当たります。2026年8月の時点で、残っているのは7か月ほど。どちらが自分に効くかは、親が亡くなった日が2024年4月1日より前か後かで分かれます。申請しないまま置いておくと、10万円以下の過料に問われることも。この過料は上限として書かれた額で、必ず取られる数字ではありません。

話し合いが3年でまとまらない家も出てくるでしょう。そのために、相続人申告登記という簡単な仕組みが用意されました。相続人の1人が単独で申し出られて、法定相続分の割合を確定させる必要もなく、登録免許税もかかりません。これで果たせるのは基本の義務までで、遺産分割が成立した後の登記は別に必要です。この記事で扱うのは義務が生じるところまでで、登記申請書をどう書くか、誰の名義にするかという先の話は 実家を相続したら、どうすればいいですか にゆずります。

分け方そのものは、どこも代わりに決めてくれません

相続の手続きで判断に迷ったら、中身によって持ち込む窓口が変わることを覚えておいてください。戸籍と登記のことは法務局と司法書士、税のことは税務署と税理士。法務局は相続登記の手引きと申請書の記載例を公開しているので、自分でやれるかどうかを見てから頼む先を決められます。税務署には国税相談専用ダイヤルが置かれていて、全国の税務署の職員が電話で応じてくれる。受付は平日の8時30分から17時までで、書類を見ながらの相談は所轄の税務署で予約制の面接になります。

介護のほうで宙に浮いたままの用件があるなら、行き先はそちらとは別。介護の相談はどこにすればいいですか にまとめてあるのは、介護を続けるあいだの相談先です。相続そのものを持ち込むのは、さきに書いた法務局と税務署のほうになります。

判断に迷う場合は、相談できる窓口があります。

介護の相談はどこにすればいいですか

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