親のお金の管理は、段階ごとに打てる手が変わります

親のお金の管理でいま何ができるかは、親の判断する力がどこまで残っているかで決まります。もう落ちてきていると感じている家にも行き先があるので、そちらから先に書いておきましょう。

口座の取引が止まって支払いに困っているなら、取引のある金融機関の窓口へ行き、何の支払いで困っているかを具体的に伝えるところから。その手順は 認知症で親の口座が止まったときに、まだ残っている道 にまとめました。実家の売却や、亡くなった人の財産を分ける遺産分割のような手続きで止まっているなら、家庭裁判所に後見の申し立てをする道が残っています。使うかどうかの判断材料は 成年後見制度は、使ったほうがいいですか のほうへ。

そのうえで、親が自分で決められるうちにしか組めない仕組みもあります。銀行の代理人の届出も、任意後見も、信託も、親自身が決めて手を動かすところから始まるからです。ここから先は、その順番を書いていきます。

通帳の場所も知らない、という段階からでも動けます

親のお金の管理で最初にやることは、通帳を預かることではありません。1か月にどこからいくら入って、どこへいくら出ていくのかを、紙1枚に書き出すところからです。

通帳を預かる話から入ると、たいてい止まります。自分の財布を取り上げられる、と受け取られるからです。入りと出を把握するだけなら、通帳は親の手元に置いたままでできる。

そもそも通帳がどこにあるかを知らない、という家がほとんどです。聞き方は、管理させてほしいではなく、手伝わせてほしいの形にする。帰省したときに「入院したときに困るから、通帳と保険証がどこにあるかだけ教えておいて」と言えば、場所を教えるだけで済むので断られにくい。その日に渡してもらう必要はありません。

そのうえで、通帳を1年分記帳してきてもらう場面を考えてみてください。記帳そのものは銀行のATMでもできるので、親が自分で行けるなら、帰省に合わせて頼むのがいちばん早い。年金の入金、電気とガスと水道、固定電話、火災保険、新聞、それに家族の誰も知らなかった月々の会費。1年分を並べると、毎月出ていくものと、年に1回だけ出ていくものが分かれて見えてきます。日付まで含めて手元に写しておけば、当面のやりくりはそれで回るはずです。

この一覧が、後の全部の土台になります。口座がいくつあるか、年金がどこに入っているか、引き落としがどこに集まっているか。ここが分からないまま代理人の届出や任意後見の話に進んでも、何を守るための手続きなのかが決まらない。

通帳や印鑑を預かることに、法律の決まりはありません

親の通帳や印鑑を家族が預かるときに見られるのは、本人が納得しているかどうかと、預かった後の動きを説明できるかどうかの2点です。

通帳の管理の方法は、預かるか預からないかの二択ではない。記帳だけ子がしに行く、引き落としの一覧だけ共有してもらう、印鑑は親が持ったまま通帳だけ預かる。どこまで踏み込むかは段階で選べます。

先に伝えておく相手は、兄弟です。同居している人が親の通帳を持つ形は、遠方の兄弟から見ると中身が見えません。預かることになった経緯と、どこに置いてあるかだけでも共有しておけば、後の話が変わってくるはずです。

記録がない状態で困るのは、預かった側です。親の預金がいくら減ったかは、通帳を見れば兄弟にも分かります。ところが、その減った分が何に使われたのかを説明できるのは、預かっていた人しかいません。相続の場面でその説明を求められたとき、手元に何も残っていなければ、自分の財布から立て替えた分まで返してもらえなくなります。

記録の型は、複雑でなくて構いません。1か月ごとに、日付と支払先と金額と支払った人を1行ずつ足していく表で足ります。人の財産を預かる立場に法律が求めている水準も、実のところこのあたり。信託という仕組みで人の財産を預かる人には、自分の財産と分けて管理することと、帳簿をつけることが義務として課されています。家族が私的に預かる場合に、それより緩くてよい理屈はありません。

すでに何か月も預かっていて、何も残していない家もあるはず。その場合は、さかのぼって完璧に作り直すより、今日から先を残すほうが効きます。口座から出た分は通帳をさかのぼれば追えるので、まずはそこまで。兄弟への切り出し方は 兄弟と介護の話を、どう切り出せばいいですか にまとめました。

本人の代わりに、手続きはできますか

本人の代わりに家族が手続きできる形は、大きく3つあります。銀行に代理人を届け出ておく形、任意後見の契約を結んでおく形、信託を組む形。どれも、親自身が決めて手続きするところから始まる点は共通です。どれから手をつけるか迷ったら、手続きがいちばん軽い代理人の届出から。任意後見と信託は、どちらも公正証書や登記といった手間が要ります。

本人の代わりに動く、3つの形銀行に代理人を届け出る親と窓口へ行く。いちばん軽い任意後見の契約公正証書。動くのは監督人が選ばれた後信託を組む名義が子へ動く。実家なら登記も要るどれも、親が決めて手続きします

代理人の届出は、親が決められるうちにしかできません

代理人の届出は、親が「この子に任せる」と決めて銀行に届け出ておくと、届け出た子が窓口で手続きできる、という扱いです。届け出るのは親本人。この手続きだけは、親といっしょに窓口へ行くことになります。代理人カードと案内している金融機関もありますが、名前も条件も一律ではありません。高齢者の財産管理に使える商品として何を置いているかは金融機関によって違いますし、手続きにもある程度の時間がかかるとされています。取引のある金融機関に、何が用意されているかを1つずつ聞くところから。

任意後見は、契約した日には動き出しません

任意後見は、誰に何を任せるかを親が自分で決めて、公正証書という書面にしておく契約です。書式は法務省令で決まっていて、作成にあたるのは公証人という法律の専門家。実際に子が動けるのは、親の判断する力が不十分になり、家庭裁判所が任意後見監督人を選んだ後からになります。監督人というのは、任された子がきちんとやっているかを見る役。任された本人の配偶者や兄弟姉妹はなれず、弁護士や司法書士などが選ばれることが多いとされています。契約した日に口座を触れるようになる、という誤解だけは避けてください。

信託で名義が動いても、子のものにはなりません

信託は、財産の名義を子に移して、そこから親の暮らしに要るお金を子が出していく組み方です。子は預かって管理する側に回り、そこから出るお金を受け取るのは親のまま、という組み立てになります。通帳を預かるのとは性質が違い、実家を入れるなら登記まで要る形。任意後見と信託でそれぞれ何ができるかは、冒頭に挙げた成年後見の記事のほうで並べました。

家族以外に預ける道も、用意されています

日常生活自立支援事業という名前で、市区町村の社会福祉協議会が家族以外の預け先になっています。社会福祉協議会は福祉の事業を地域で担っている団体で、介護の相談を受ける地域包括支援センターとは別のところ。通帳と印鑑を親族の手元に置かずに済ませたい家では、この選び方もあります。契約の中身を本人が判断できることが利用の条件なので、これも親が決める形。

なお、2026年6月に公布された民法の改正で、成年後見のしくみは見直されることが決まりました。公布というのは、決まった内容が世に示された段階のこと。実際に効き始める施行の日はまだ示されていないため、いまの判断はいまの制度で行うことになります。

判断する力が落ちると、止まるものがあります

親の判断する力が落ちた後は、預金の出し入れ、実家の売却、新しい契約。お金にかかわる場面の多くが止まります。

段階で、打てる手が変わります判断する力が残っている段階代理人の届出、任意後見、信託引き落としの一覧を作る落ちた後止まる 預金の出し入れ、実家の売却残る 銀行の窓口、家庭裁判所への申立て落ちた後にも、行き先はあります

すでに落ちている家を突き放すつもりで書いているわけではありません。口座が止まっているなら金融機関の窓口に相談する道が、売却や遺産分割で止まっているなら家庭裁判所に申し立てる道が残っています。行き先は、冒頭に挙げた2本と変わりません。

最初に詰まるのは、たいてい預金です。家族という理由だけでは、窓口はお金を出しません。実際、成年後見の申し立てで最も多い理由も預貯金の管理や解約で、2025年に終わった手続きの93.4%に挙がっていました。裁判所はこれを事件と呼びますが、もめごとという意味ではなく、受け付けた1件という数え方です。1件で複数の理由が挙がるため合計は100%を超えるものの、順位ははっきりしています。

後見人を立てれば元どおりになる、という話でもありません。親が住んでいた家については、後見人が付いた後も、売るにも貸すにも家庭裁判所の許可を取る手順が挟まります。後見が始まると、親本人がした契約を後から取り消せる状態にもなる。これは不利な契約を結ばされたときに取り消して本人を守るための仕組みですが、裏返せば、日用品の買い物などを除いて親自身が動ける範囲はせまくなります。

踏み込む線を決めるのは、本人です

親の財産にどこまで手を入れるかを決めるのは、本人のほうです。子が管理しやすい形を先に作って、後から親に納得してもらう、という順番にはしないでください。

法律は、家庭裁判所が選んだ後見人にさえ、本人の意思を尊重し、心身の状態と暮らしぶりに配慮するよう求めています。任意後見人にも同じ義務が置かれました。公式に代理する立場の人が、そこまで縛られる。家族が私的に預かる場合は、なおさら同じ線で考えておくほうが安全です。

たとえば、遠方に住む子が「口座が3つあると管理が大変だから1つにまとめよう」と言い出した場面。手間の面では正しくても、親から見れば、長年使ってきた銀行との縁を子の都合で切られる話になります。まとめる必要が本当にあるのか、それとも自分が楽になるだけなのか。ここを一度分けて考えてみてください。

親が通帳を渡すことを嫌がるなら、そこで押さないほうがいい。最初の節で作った引き落としの一覧だけでも、当面の困りごとはかなり減ります。使い込みを疑われる立場になるのは、預かっている側のほう。踏み込みを最小限にとどめておくことは、親を守るだけでなく、自分を守ることにもつながります。

ずっと先まで効いてくるのが、最初の節で作った引き落としの一覧です。親が亡くなった後には、どこを止めてどこへ連絡するかを洗い出す作業が待っていて、その材料は、いま手元にある紙とほとんど変わりません。急いで先を読む必要はないので、その日が来てから 親が亡くなった後にやることの順番と、遅れたときの戻り方 を開けば間に合います。

銀行と福祉の窓口に、それぞれ何を聞きますか

お金の管理の進め方で判断に迷ったら、金融機関の窓口と、親が住む地域の地域包括支援センターの2か所に分けて相談してください。口座で何ができるかは銀行しか答えられませんし、家族での分担や本人の意思の確かめ方は福祉の窓口のほうが慣れています。

聞き方まで決めておくと早い。銀行には「この口座に代理人の届出はできますか」を親と二人で、地域包括支援センターには「親のお金の管理を家族で分担したい」を自分ひとりで。どちらに何を持ち込めるかは、介護の相談はどこにすればいいですか にまとめました。

判断に迷う場合は、相談できる窓口があります。

介護の相談はどこにすればいいですか

おすすめの記事