親の車は、年齢ではなく運転の中身で決めます

親の車を手放す時期に、年齢の線引きはありません。75歳になったから危ない、80歳を過ぎたから返す、という決まりはどこにも置かれていない。かわりに見るのは、この人の運転がどう変わってきたかのほうです。

まだ一度も切り出せていない人もいれば、これまで何度も言ってきて、そのたびに空気が悪くなった家もあるでしょう。どちらも、言ってきたこと自体は間違っていません。ただ、順番が逆になっている家が多いところ。返してほしいと伝える前に、返したあとの足を用意しておく。まだ切り出していないなら、この順番のまま始められます。

この記事では、事故の件数や割合を出しません。数字で怖がらせたところで、親の生活は軽くならないからです。かわりに並べるのは、家族が自分の目で確かめられることと、公的な仕組みが用意しているもの。この2つで十分でしょう。

危ないかどうかの見分けは、家族の目で足ります

家族が目で確かめられるのは、車体の傷、道の間違え方、同乗したときの感覚の3つです。医学の判断は要りません。

盆に帰るたびに、左後ろのバンパーの傷が増えていた家がありました。本人に聞くと、擦っていない、もともとあった、と返ってくる。傷の位置は毎回違い、車庫の柱にも白い塗料が付いていました。この家にとって重かったのは、傷そのものより、本人が覚えていないという事実のほうです。

2つ目が道でした。行き先を言い間違える、通い慣れた道で曲がる場所を迷う、帰るまでの時間が以前より延びる。同じ道を40年走ってきた人に起きているなら、それは慣れの問題ではありません。

3つ目は、助手席に座ったときの感覚です。ブレーキを踏むのが遅い、信号が青に変わってから動き出すまでに間がある、車線の真ん中を走れない。気づいたその場で、日付と場所と、何がどう怖かったかを1行ずつ紙に書き留めておいてください。あとで窓口や医師に話すときに、これがいちばん役に立つ材料になります。

やめさせるかどうかを、家族が決めるのですか

運転をやめさせるかどうかを、家族だけで決める必要はありません。免許の更新のたびに、公的な確認が入るようになっているからです。更新期間が満了する日の年齢が75歳以上の人は、認知機能検査を受けます。満了日の6か月前から受けられるもので、中身は2つ。一定のイラストを覚えて、採点に関係のない課題をはさんでから答えるもの。それと、いま何年何月何日で何曜日か、いま何時ごろかを答えるもの。順に手がかり再生、時間の見当識という名前が付いたものです。

判定は、認知症のおそれがある人か、おそれがない人かの2つに分かれます。おそれがあると判定されると、医師の診断を受けるよう求められる。臨時適性検査か診断書提出命令という2つの形があり、診断の結果が認知症であれば免許の取消しか停止という流れです。つまり、判定するのは検査と医師であって、家族ではありません。ここは家族が背負わなくていい部分。

70歳から74歳の人にも、高齢者講習があります。普通自動車に対応する免許を持っている場合は2時間で、座学と運転適性検査に60分、実車に60分。手数料は、2026年8月時点の東京都の例として、受講する本人が払う額で6,600円です。認知機能検査のほうは、同じ時点の東京都の例で、警察の施設で受ける場合に1,050円。お住まいの都道府県では違うことがあるので、更新のはがきが届いたら金額を確かめてください。実車が入るぶん、教習所の指導員が運転の中身を見る場面もここに含まれるでしょう。

年齢だけでは、受ける検査は決まりません

違反があると、実車の検査がもう1つ加わります。同じ80歳でも、違反がなければこの検査は加わりません。年齢だけで線を引く仕組みにはなっていないわけです。対象は、75歳以上で、免許の有効期間が満了する前の3年間に違反をした人。信号無視、通行区分違反、速度超過、踏切での不停止、交差点での右左折の方法違反、横断する歩行者などの妨害、安全運転義務違反、携帯電話の使用がここに入ります。コースで実際に普通自動車を運転して一時停止などの課題を行い、100点からの減点方式で採点され、ふだん自家用車に乗るための第一種免許なら70点以上で合格。親が過去3年で違反をしたかどうかを家族が知らないのは、珍しいことではありません。更新の案内が届いた日に、何を受けることになっているかを一緒に見せてもらうところから始めてください。

更新のとき、何を受けるか70歳から74歳高齢者講習。実車が入る75歳以上認知機能検査と高齢者講習75歳以上で、直近3年に違反運転技能検査が加わる。実車で採点2026年8月時点。年齢だけでは決まりません

何度言っても聞かないときは、どうしますか

何度言っても聞いてもらえないときは、免許を返す話からいったん降りて、車に乗る回数を減らす話へ切り替えます。取り上げる交渉を重ねても、返ってくる答えは変わりません。

何度も言ってきたのは、それだけ長く心配してきたということ。責められる話ではありません。同じ話を持ち出すたびに険悪になっている、という家も多いはずです。正面から向き合う形が続く限り、こちらが折れるか本人が折れるかの二択になってしまう。

そこまでやってしまう家があるのも、心配が強いからです。鍵を隠した、バッテリーを外した、留守のあいだに売った。関係は確かに傷つきますが、戻せないわけではありません。やったことを自分の口から先に伝えて、勝手に決めた点を謝る。そのうえで、何を心配していたのかを具体的に話してください。先に書きとめた紙を、そのまま見せる。感情ではなく、事実のほうが届く。

買い物の送迎を引き受けて、乗る用事そのものを減らした家があります。日曜の午前に長男が実家へ寄り、まとめ買いに付き合う形にした。米と水と洗剤を運ぶのは車が要る用事だったので、そこが消えるだけで運転の回数は半分になりました。免許返納という言葉は、そのあいだ一度も出していません。半年ほど過ぎたころ、本人のほうから、もう乗らんでもええな、と言ったそうです。

家族以外から言ってもらう手も残っています。警察には安全運転相談窓口があり、全国共通の番号として♯8080が用意されました。加齢に伴って体の働きが落ちてきた運転者本人だけでなく、その家族も相談できると明記されている窓口です。対応するのは都道府県の警察で、看護師などの医療の専門職を含む職員が担当します。傷が何回増えたら手放す、という線を引いた決まりはどこにもないので、書きとめた紙を手元に置いて「この記録で、まだ運転を続けても大丈夫でしょうか」と聞いてみてください。

ただし、電話をすれば警察が本人を説得してくれる、という仕組みではありません。そこは期待しないでおいてください。相談したあと何が起きるのかを先に聞いて、家族としてどう関わればいいかを教わる場だと考えるほうが近いでしょう。

かかりつけの医師にも、相談の余地はあります。持病や薬が運転にどう関わるかは、家族の手に負える範囲を超えているからです。受診に付き添う日に先の紙を渡しておくと、医師の側から運転の話が出ることもあるでしょう。

返納で受けられる支援は、市区町村ごとに違います

返納したときに受けられる支援は、住んでいる市区町村と都道府県によって中身が変わります。全国どこでも同じものが用意されている、という制度ではありません。警察庁の説明も、地域の実情に応じて自治体や事業者などが支援を行っている、という書き方でした。

どこでも共通しているのは、運転経歴証明書のほうです。自主的に免許を返した人や、更新をせずに失効した人が交付を受けられるもの。2012年4月1日以降に交付されたものは、運転免許証に代わる公的な本人確認書類として使えます。免許を返すと身分証がなくなるという心配は、ここで消えるはずです。

証明書には期限が1つ付いています。返してから5年以上、あるいは失効から5年以上が過ぎていると、交付を受けられません。違反で免許を取り消された場合も対象から外れます。返すと決めたなら、証明書の手続きは同じ日に済ませてしまいましょう。車体のほうは、その日に片づかなくて構いません。売るのか引き取ってもらうのかは、実家に残ったほかの物と同じ手順で決められるので、順番の付け方は 親の家の片づけは、捨てる順番から始めます に書いておきました。

そもそも自主返納ができない場合もあります。免許の停止や取消しの行政処分を受けている最中の人、その処分の基準に当たっている人など。自主返納と呼ばれている手続きの正式な名前は、申請による運転免許の取消しです。罰として取り上げられる取消しとは別のもので、こちらは自分から申し出るほう。窓口で受け取る書類も申請による運転免許の取消通知書という名前になっていて、この紙は自治体の支援を申し込むときに使うので、なくさないでください。

横浜市は、2025年4月1日以降に75歳以上で免許を返した人へ、敬老特別乗車証を無料で交付しています。無料になる期間は、返した時期によって決まる仕組み。手続きは、警察署か運転免許センターで返納して取消通知書を受け取り、本人確認の書類とあわせて区役所の高齢・障害支援課へ申請するという流れです。申請の期限は、返納した日から2回目に来る9月30日まで。返したあと最初に来る9月30日ではなく、その次の9月30日まである、という意味になります。

名古屋市のほうは、年度ごとの事業として組まれていました。2026年度は、申請のときに市内に住んでいて1957年4月1日以前に生まれた人が、2026年3月14日から2027年3月16日までに免許を返した場合に、マナカという交通カードのチャージ券5,000円分の交付を受けられる内容。市が交付する券の額としての5,000円です。申請は2026年4月13日から2027年3月19日までに、申請書と取消通知書の写しを郵送します。

この2つは、よその市の例として並べたものです。対象の年齢も、もらえるものも、申請の期限も、市によってまるで違う。実家のある市に同じものがあるとは限りません。確かめる先は2か所あります。1つが、親の住む市区町村のサイトか高齢福祉の担当課。もう1つは、その都道府県の警察のサイトです。警視庁は自主返納をサポートする協議会に加わった企業や団体の一覧を出していますし、神奈川県警察にも協賛する事業所の一覧がある。運転経歴証明書を見せると使える形になっているものが多いところです。

♯8080に電話をすれば、返納後の支援について教えてもらうこともできます。ただ、免許返納の特典を説得の材料にするのは勧めません。チャージ券やパスと引き換えに足を手放す人は、いないからです。特典は、返すと決めたあとで取りこぼさないためのもの。先に手を付けるのは、返したあとの足のほう。

返納したあと、どう移動しますか

返納したあとの移動手段は、返す前に用意しておきます。ここを飛ばして先に免許を返させると、車のなくなった日から親の生活が縮んでいく。用意ができてから返す、という順番だけは崩さないでください。

用事ごとに、置き換えるいま車で行く先置き換える先通院デイサービスの送迎訪問介護の通院介助も買い物宅配に切り替える重いものだけでも減る寄り合い地域の足を探す乗合や有償運送。地域による埋まらない行が、返せない理由になります

最初にやるのは、書き出しです。親が車で行っている先を、1週間分そのまま紙に並べる。通院が週2回、買い物が週1回、寄り合いが月2回、床屋が月1回、墓参りが年に数回。行き先ごとに、曜日と時間と距離まで入れてください。埋まらない行が残ったら、そこが返納できない本当の理由になります。

週2回の通院を、デイサービスの送迎と家族の送迎で置き換えた家がありました。整形外科のリハビリはデイサービスに寄せ、内科の受診だけ月に1度、娘が半休を取って連れて行く形へ変えた。買い物は宅配に切り替えています。埋まらなかったのは寄り合いへの往復だけで、そこは近所の人が乗せてくれることになったそうです。

介護保険にも、通院の足を助ける仕組みがあります。訪問介護の事業所には、通院などを目的とした乗車と移送と降車の介助を扱っているところがあり、利用者負担の目安は、2026年8月時点の単価で、要介護1から5の1割負担の人が払う額として1回97円。使うには要介護の認定を受けていて、ケアプランと呼ばれる利用計画に入っていることが前提です。認定をまだ受けていないなら、この仕組みを使う前に申請が要ります。何をどこへ出すのかは 要介護認定の申請先と、必要な書類と、代わりに出せる人 のほうに。要支援の段階での扱いは違ってくるため、利用計画を組む担当のケアマネジャーにも確かめておきましょう。訪問介護で何をどこまで頼めるかは、訪問介護に頼めること、頼めないこと のほうにまとめました。

デイサービスの利用者負担には、送迎にかかる費用が含まれています。日中を施設で過ごして夕方に帰ってくる通いのサービスで、行きも帰りも車が迎えに来る形。週に2回通えば、週2回は家の外に出る道が確保されます。通所を足の代わりに使うという発想は、ケアプランを組む段階で伝えておくと反映されやすいところです。

介護保険の外側にも、地域の足はあります。バスやタクシーだけでは十分な移動手段がそろわない地域について、市町村のバスやNPO法人などによるボランティアの有償運送を認める、自家用有償旅客運送の登録制度が設けられました。国土交通省は、福祉と交通が重なる現場に向けたパンフレットを2025年3月に改訂しています。こうした仕組みがあるかどうかは地域による差が大きいので、実家の地域に何があるかは、高齢の親の暮らしを地域で引き受けている地域包括支援センターに聞くのが早いでしょう。

買い物のほうは、宅配と配食で置き換えられる部分があります。米や水のように重いものだけを宅配へ回せば、それだけで運転しなければならない用事が減る。配食を頼むと、届ける人が毎回顔を見ていくので、見守りも兼ねてくれる。

足が全部は埋まらない地域もあります。そこは正直に書いておきましょう。バスが1日に数本しかない、タクシーを呼んでもすぐには来ない、という土地で車を手放せば、暮らしは確実に縮みます。だからこの記事は、返納を勧める形にしていません。埋まらない行が残った人に向けて、返さないまま続けるやり方をこのあとに置きました。

返納しない選択も、残っています

返納しない選択も、条件つきで残っています。運転を続けるなら、どこまで乗るかを家の中で決めて、それを守る形にする。返す人が正しくて、続ける人が間違っている、という話ではありません。

制度の側にも、全部返すか続けるかの中間が用意されています。申請すると、運転できる自動車の範囲をサポートカーに限る条件を、普通免許に付けられる仕組み。対象になる装備は、対車両と対歩行者の衝突被害軽減ブレーキ、それにペダルを踏み間違えたときの加速を抑える装置です。申請は、免許の更新申請とあわせて出せるもの。

上位の免許を持っている人は、申請による免許の一部取消しで普通免許にしたうえで、条件を付ける形になります。大型やけん引だけを手放して、普通車には乗り続けるという畳み方ができるということ。年齢で区切られた制度ではないので、高齢者向けと決めつけずに窓口で聞いてみてください。

家の中で決める条件は、紙に書いて冷蔵庫に貼るところまでやると効きます。日が暮れたら乗らない、高速道路には乗らない、雨の日はやめる、片道30分を超える遠出は誰かが同乗する。決めるときは、家族が言い渡すのではなく、本人に決めてもらってください。切り出し方は、やめる話ではなく決める話にするのがこつ。乗るなとは言わないから夜だけはやめておかないか、と範囲を1つに絞ると返事が出やすくなります。自分で口にした条件のほうが守られるからです。

条件を決めたら、見直す日も先に置いておきましょう。次の免許の更新日で構いません。そこまでは口を出さない、と家族の側も約束する。毎回言われる状態が続くと、本人は運転の話そのものを避けるようになります。

安全運転相談窓口も、返す相談だけの場ではありません。体の働きが落ちてきたなかで安全に運転を続けるための助言や指導を扱いますし、体の障害や病気がある場合に、免許へ条件を付けて補える場面の相談にも応じています。続けたいという相談を持ち込んでも構わない窓口だということ。

続けると決めたなら、家族の側も見方を変えます。最初の節で作った紙に、月に一度だけ書き足す。車体を一周して傷を見て、変化がなければその日は何も書かない。それだけで、次に話すときの材料はそろっていくはずです。

最後に、いまは急がなくていい話を一つだけ。乗らない車を親の名義のまま置いておくと、名義を動かす日はいつか来ます。そのときは車の手続きではなく相続の側の手続きとして進むので、必要になったら 相続の手続きは、必要書類をそろえる前に相続人を確かめます を開いてください。

免許の話より先に、足の話を持ち込みます

親の運転について判断に迷ったときの相談先は、免許のことと足のことで別々になります。免許そのものを扱うのは警察の安全運転相談窓口で、番号は♯8080。返したあとの足をどう埋めるかは、実家のある市区町村の地域包括支援センターのほうです。両方にまたがる悩みなら、足の話から先に。埋まる見込みが立ってからのほうが、免許の相談も具体的になるはずです。

どちらへ持ち込むにしても、書きとめた紙を持って行くと話が早く進みます。どの窓口に何を持ち込めるかは、介護の相談はどこにすればいいですか にまとめました。

判断に迷う場合は、相談できる窓口があります。

介護の相談はどこにすればいいですか

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