成年後見制度は、使ったほうがいいですか

成年後見制度を使うかどうかは、それを立てないと先へ進まない手続きが目の前にあるかどうかで決まります。実家の売却や遺産分割のように、本人の意思確認が欠かせない手続きで止まっているなら、ほかに道が見つからないことが多い。逆に、そういう手続きがないのなら、急いで申し立てる理由はありません。その場合に代わりに用意しておくものは、この記事の後半に3つ並べました。

金融機関や施設から「後見人を立ててください」と言われて調べ始めた方が多いはず。動く前に押さえておきたいのが、この制度はいちど始めると原則として途中でやめられないという点です。きっかけになった一件が片づいた後も、本人が亡くなるまで続きます。

後見、保佐、補助のどれに当たるかは、家族が選べません

成年後見制度は、判断する力が落ちた人に代わって財産を管理したり契約を結んだりする人を、家庭裁判所が決める仕組みです。認知症や知的障害、精神障害などで物事を判断する力が十分でない人の権利を、法律の面から守るために置かれました。

力の落ち具合によって3つに分かれます。判断する力が欠けているのが通常の状態なら後見、著しく不十分なら保佐、不十分なら補助。重いほうから順に、後見、保佐、補助という並びです。どこに当たるかを決めるのは家庭裁判所であって、家族が選べるものではありません。

重さで3つに分かれます後見判断する力が欠けているのが通常の状態保佐判断する力が著しく不十分補助判断する力が不十分決めるのは家庭裁判所。2026年8月時点

では、判断する力があるかないかを、誰がどうやって見るのか。まず医師です。申し立てのときには医師が書いた診断書を付けることになっていて、家庭裁判所はそれをもとに判断します。後見が始まった原因の分類も、提出された診断書などの記載に基づいて行われました。そのうえで家庭裁判所が必要と判断すれば、医師による鑑定という、もう一段踏み込んだ調べが入ります。うちの親がどちらなのかを家族が決める必要はないので、迷ったら、かかりつけの医師に「成年後見の申し立てに使う診断書は書いてもらえますか」と聞いてみてください。

成年後見が必要な場合は、思っているより狭いところにあります。たとえば、施設の費用をまかなうために空き家になった実家を売ろうとした場面。買い手が見つかり、書類を作る段になって止まります。売主である親が、自分の家を売るという話そのものを理解できていなかったからです。契約は本人がするものなので、代わりに署名できる人がいないかぎり、その先へは動きません。

制度を使っている人は、2025年12月末の時点で259,901人。内訳は後見が180,828人、保佐が58,162人、補助が18,078人、任意後見が2,833人でした。数の上では、後見に大きく偏った状態。

使わないと動かせない手続きが、あります

後見人を立てないと動かせない手続きは、本人の意思確認が欠かせないものに集まっています。不動産の売却、遺産分割、施設の入所契約。この3つが代表格でしょう。

何のために申し立てられているかは、統計に出ています。2025年の1年間に終わった42,674件について、申し立ての動機に挙がったのは、預貯金の管理や解約が93.4%、暮らしと療養の面の手続きをまとめた身上保護が74.2%、介護保険の契約が45.7%、不動産の処分が36.3%、相続の手続きが25.6%。1件につき複数の動機が挙がるため、足し合わせると100%を超えます。

止まりやすいのは、相続の場面です。親が亡くなり、残された配偶者に判断する力がなかったとしましょう。遺産分割は相続人全員の合意で決めるものなので、意思を示せない人が1人いるだけで、話し合いそのものが成り立たなくなる。預金の名義変更も、そこで足踏みします。この場面に実際にぶつかるのは、まだ何年も先という家がほとんどでしょう。後見が要るのはこういう場面だと、いまは形だけ覚えておけば十分。そのときに何から片づけるのかを期限の近い順に並べ直したのが、親が亡くなった後にやることの順番と、遅れたときの戻り方 のほうになります。

保佐の場合は、本人が何もできなくなるというより、保佐人の同意がないとできない行為が決まる形。法律が並べているもののうち、家族に関わりが深いのは、不動産などの重要な財産を手放すこと、借り入れや保証をすること、遺産分割をすること。同意を取らずにした行為は、後から取り消せます。

一方で、口座の取引が止まっているという理由だけで急ぐ必要はありません。金融機関には、後見を立てなくても支払いに応じる余地が用意されていることがあります。先にやるのは、取引のある銀行の窓口へ行き、何の支払いで困っているかを具体的に伝えること。そこで道が残っていないかは、認知症で親の口座が止まったときに、まだ残っている道 で確かめてください。

いちど使うと、やめられないのですか

いちど成年後見が始まると、いまの制度では原則としてやめられません。申し立てのきっかけになった一件が解決した後も、本人の判断する力が戻るか、本人が亡くなるまで続く仕組みです。

戻せない理由は、法律の作りのほう。民法は、後見が始まった原因が消えたときに家庭裁判所が審判を取り消す、とだけ定めています。保佐も補助も、同じ形。原因が消えていない状態で取り消すための規定が、いまの民法には置かれていない。だから家族が望んでも本人が望んでも、途中で降りる道がありません。

成年後見制度のデメリットとして語られるのは、ここから先の3つです。

1つ目が報酬。後見人や監督人への報酬は、付けるかどうかと額を家庭裁判所が決め、本人の財産から支払われます。いくらにするかの基準は法律で定められておらず、家庭裁判所ごとに目安を公表している状態。2026年8月時点で長野家庭裁判所が示している目安では、通常の事務を行った場合で月に1万円から2万円ほどとされています。後見人が管理する財産が1,000万円を超えると月に3万円から4万円ほど、5,000万円を超えると月に5万円から6万円ほどになることも。いっぽう、2013年に公表された東京家庭裁判所の目安は基本報酬が月に2万円で、家庭裁判所によって示している額も、示された年も違います。どれも本人の財産から出ていく額であって、家族が別に払うものではありません。ただし、家族の財布から出ないというだけで、親の財産のほうは毎月その分だけ減っていきます。

実家を売るために申し立てた家を思い浮かべてください。売却の登記が済み、代金が入り、施設の費用に充てるところまで終わっても、後見人の役目はそこで終わりません。月々の報酬は、本人が亡くなるまで発生し続けます。何年続くかは誰にも読めないので、申し立てる前に「この先ずっと」という前提で考えておいてください。

2つ目が、家族が後見人に選ばれるとは限らないこと。2025年の1年間に選ばれた後見人等のうち、配偶者や親、子、兄弟姉妹などの親族だったのは16.4%でした。ただし、この割合の分母は申し立てられた事件の全体です。そもそも申立書に親族を候補者として書いた事件が19.7%しかないため、申し出た家の8割が断られている、という読み方はできません。かといって、候補者を立てた家のうちどれだけが選ばれたのかという数字も、この統計からは取り出せない。親族以外の内訳は、司法書士が33.5%、弁護士が24.9%、社会福祉士が20.4%。誰を選ぶかは家庭裁判所が自分の判断で決めるので、希望した人が選ばれなかったことを理由に不服を申し立てることもできない仕組みです。家族を立てたいなら、申立書に候補者として名前を書いたうえで、出す先の家庭裁判所に「候補者を立てた場合、どういうときに専門職のほうが選ばれますか」と聞いておいてください。

3つ目が、本人の財産の使い道が本人のためだけに絞られること。法律は、後見人に対して本人の意思を尊重し、心身の状態と暮らしぶりに配慮しながら事務を行うよう求めました。孫の学費や、同居する家族の生活費に回すといった使い方は、本人のための支出と言えるかどうかで判断されます。どこまでが認められるかを一律に示した資料は見当たらないため、個々の支出については後見人と家庭裁判所に確かめてください。

ここまでが、いま申し立てる人に当てはまる話です。そのうえで、制度そのものが変わることは決まりました。2026年6月17日に成立し、同月24日に公布された民法等の一部を改正する法律により、後見と保佐は廃止され、補助に一元化されます。本人の判断する力が戻っていなくても、制度を使う必要がなくなったと家庭裁判所が認めれば終了できる形へ変わる。法務省は改正の理由として、いまの後見と保佐は力が戻らない限り利用をやめられない、と課題をはっきり書いています。

ただ、待てば楽になる、という話ではありません。施行の日は政令、つまり内閣が定める決まりで指定することになっていて、2026年8月の時点でその日はまだ示されていない。2026年6月24日の公布から2年6か月以内という枠があるだけなので、あと何か月待てばいいのかを計算する材料が、そもそもありません。いま止まっている手続きがない人にとっても同じで、施行を待つ意味があるのは、すでに使っていてやめたい家のほう。まだ使っていないなら、待つより先に、後見を使わずに済ませる道を用意しておくほうが動きやすいはずです。

すでに後見や保佐を使っている家には、経過措置が置かれます。施行日より前から使っている場合は、基本的にそのままの内容で続けられる形。新しい制度へ移りたいなら改正後の補助の申し立てを、やめたいなら審判の取消しの申し立てをする道が用意されます。いまから申し立てる人も、施行の日より前に使い始めることになるので、この経過措置の側に入る並びです。どんなときに「必要がなくなった」と認められるのかは、運用が始まってみないと見えてきません。

任意後見と法定後見は、いつ決めるかで分かれます

任意後見と法定後見の違いは、後見人を誰がいつ決めるかという1点にあります。任意後見は本人が判断できるうちに相手を選んで契約しておくもの、法定後見は力が落ちた後に家庭裁判所が選ぶもの。この順番の差が、そのまま使い勝手の差につながっている。

任意後見の契約は、法務省令で決められた様式の公正証書で作ります。公正証書を作るのは公証人という法律の専門家です。結んだだけでは動き出しません。本人の判断する力が不十分になった段階で、家庭裁判所に任意後見監督人を選んでもらい、その選任のときから効力が生じる二段構え。監督人には受任者の配偶者や親子、兄弟姉妹はなれない決まりなので、第三者が入り、その報酬も本人の財産から出ます。

やめ方のほうも別です。監督人が選ばれる前なら、公証人の認証を受けた書面でいつでも解除できる。選ばれた後は、正当な事由があるときに家庭裁判所の許可を得て解除する形に変わります。法定後見のように、原因が消えるまで降りられないという作りではありません。

とはいえ、任意後見を用意している家は多くない。2025年12月末の時点で任意後見を使っている人は2,833人にとどまり、制度全体の利用者と比べればごく一部でした。親の判断する力がすでに落ちているなら、任意後見という選択肢は残っていません。その場合に見るのは法定後見のほうですが、そこへ進む前に、後見を使わずに済ませる道が3つあります。まだ間に合う段階なら、いちばん先に動かすのは取引のある銀行への代理人の届出。手続きが軽く、親といっしょに窓口へ行けば済みます。そこから先の順番は 親のお金の管理は、段階ごとに打てる手が変わります にまとめました。

使わずに済ませる道は、ありますか

後見を使わずに済ませる道は、いくつか用意されています。ただし、それぞれ届く範囲が違うので、目の前で止まっているものに手が届くかどうかで選んでください。

後見を使わずに済ませる道日常生活自立支援事業日々のお金と、通帳などの預かり銀行の代理人の届出その口座での取引。条件は銀行ごと信託財産の管理と処分。名義が子へ動くこの3つでは動かないもの実家の売却、遺産分割止まっているものに手が届くかで選びます

日常生活自立支援事業なら、途中でやめられます

日常生活自立支援事業は、社会福祉協議会と契約して、福祉サービスを使うときの手続き、日々のお金の出し入れ、通帳や印鑑や年金証書などの預かりを頼める仕組みです。契約の中身を自分で判断できることが利用の条件なので、そこが後見との分かれ目になります。代理を頼めるのは本人が指定した口座の払い戻しなどに限られ、本人が結んでしまった契約を取り消すことはできません。そのかわり、本人の気持ちで途中でやめられます。利用料を決めるのは、事業を行っている社会福祉協議会のほう。2026年8月時点で厚生労働省が示している平均は、訪問1回あたり1,200円です。1回ごとにかかる額で、利用の回数は1か月に2回ほどが平均でした。契約の前の相談にかかる費用と、生活保護を受けている世帯の利用料はかかりません。

銀行の代理人の届出は、名前も条件もばらつきます

銀行に代理人を届け出ておく形なら、本人が親族に代理権を与え、その届出を銀行が受けているときに、届け出た人が窓口で取引できるという整理が示されています。名前も条件も金融機関でばらつくため、取引のある窓口に何が用意されているかを聞くところから。

信託を組むなら、実家は登記まで要ります

信託では、親が財産を預ける側と、そこから出るお金を受け取る側を兼ね、子が預かって管理する側になります。法務省の資料が契約の例として挙げているもので、順に委託者、受益者、受託者という呼び名が付いたもの。親の財産を子に移し、子が管理しながら、親には生活費を渡していく形になります。名義そのものが動く点が、通帳を預かるのとは大きく違うところ。実家のように登記のある財産を入れるなら、信託の登記も要ります。財産の管理と処分のための仕組みなので、それ以外のことまで頼めるわけではありません。

この3つで手が届かない手続きが残るなら、そこで初めて後見を検討する順番になるはずです。

申し立ては、子からでも出せます

申し立ての出し先は、本人の住所地を受け持つ家庭裁判所です。出せる人の範囲も決まっていて、本人、配偶者、四親等内の親族、検察官など。子もこの範囲に入っていて、身寄りがない場合などには市区町村長も申し立てられます。2025年の申立人を見ると、本人自身が24.8%、市区町村長が23.7%、子が18.5%でした。

費用は、家庭裁判所と登記に納める実費から。申し立ての手数料が収入印紙で800円分、登記の手数料が収入印紙で2,600円分です。連絡用の郵便切手も要りますが、いくら分そろえるかは裁判所ごとに違うので、出す先への確認が要ります。診断書を書いてもらう費用や、戸籍と住民票を取り寄せる費用も別に見ておいてください。

家庭裁判所が必要と判断すれば、医師による鑑定が行われ、その費用は申立人が納めます。申し立てのときに付ける診断書とは別のもので、鑑定のほうは家庭裁判所の求めで改めて調べてもらう形。ただし2025年に鑑定まで進んだ事件は3.4%なので、多くの家では鑑定の費用はかかりません。行われた場合でも、申立人が納めた鑑定費用が10万円以下だった事件が85.8%を占めていました。

期間の目安も出ています。2025年に終わった事件では、申し立てから2か月以内に決まったものが71.1%、4か月以内が93.8%でした。今月の支払いを間に合わせるための手段ではない、ということ。

出す前に決めておきたいことが2つあります。1つは、申立書を出した後は家庭裁判所の許可がないと取り下げられない点。認められた事件の割合は2025年で95.1%で、出せばほぼ通ります。通ること自体は悪い話ではありませんが、通ったあとは後戻りができない、という意味でもある。もう1つが、兄弟への連絡です。家庭裁判所から親族へ、候補者を伝えたうえで意向を尋ねる連絡が入ることがあります。黙って申し立てると、その連絡で初めて知った兄弟との間に別の問題が生まれかねません。

費用の助成もあります。市区町村が申し立ての費用や後見人への報酬の一部を助成する成年後見制度利用支援事業で、2025年4月1日の時点では、高齢者向けの助成を持つ市町村が1,741のうち1,699でした。ただし対象は所得の低い世帯で、基準も対象になる申立人の範囲も市区町村ごとに違います。本人の権利を守る相談をまとめる中核機関を置いている市町村も1,340にとどまるため、親が住む市区町村に「中核機関はありますか」「申立費用の助成は使えますか」と聞いてみるのが早いはず。

後見が要るかどうかは、止まっているものによって変わります

成年後見を使うかどうかの判断に迷ったら、いま止まっている手続きを1行で書き出してから相談に行ってください。実家の売却なのか、遺産分割なのか、それとも毎月の支払いなのか。書き出したものが変われば、相談する先も、返ってくる答えも変わります。

入口は、親が住む地域を受け持つ地域包括支援センターで、本人の権利を守る仕事を担当している人です。市町村が設けている高齢者の相談窓口で、成年後見制度を使うかどうかの相談も扱っています。手続きそのものの尋ね先は本人の住所地の家庭裁判所。どの窓口に何を持ち込めるかは、介護の相談はどこにすればいいですか にまとめました。

判断に迷う場合は、相談できる窓口があります。

介護の相談はどこにすればいいですか

おすすめの記事